落とし物はどちらへ?

 給食が終わった後の5時間目。


 クラスの生徒たちは眠さに耐えながら自習の時間を過ごしていた。


 ぐっすりと眠っている人も目に入る。

 そんな状態の中、残念なことに遠くから足音が聞こえてきた。


 その足音はだんだん近づいてくる。

 先生だ。


 俺は先生が来たのがわかると外のなんてことない景色から目を離し、勉強をしているふりをした。

 別にこれといって悪いことをしていたわけでもないのに。


 先生は教室の中に入ってくると床を見つめて何かを拾った。


「これ落とした人~」

「ん?」


 先生が拾ったのは青色のよくありそうな歯ブラシだった。

 その近くの男子は「汚いなぁ」とつぶやく。


「汚いとか言っちゃダメでしょ。これは落とし物箱に置いておくから落とした人は後で取りに来てな」


 そういいながらも先生は歯ブラシをティッシュペーパーで包んでいる。

 

「先生だって汚そうに持ってるじゃないですか。そういうことするから誰も名乗らないんですよ?」

「そう言われてもなぁ」

「ちゃんとしてくださいよ。いつもそうやって人にばっかり言うんですから」


 先生は自分の矛盾に何も言い返せなくなっている。

 なんだか俺はこんな先生がかわいそうになってくる。


 どうしようもない状況にただじっと教科書を見つめていると隣の女子はボソッとつぶやいた。


「落とし物箱に先生の自信も入ってるといいんだけどなぁ」


 

 落とし物を彼らが手に入れるのは当分先になるだろう。

 

 本人の手に届くかどうかも怪しいものだ。

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