Dance in Apnea

Dance in Apnea - 1

 バレエに身を捧ぐ一介のダンサーとして、数々の奇跡を目の当たりにした。

 時には自分も誉れある奇跡の称賛を頂いた。

 バレエの世界しか知らない俺は、数えきれない奇跡の中で生きている。

 それぐらいの世界観がないとバレエダンサーとしては死活問題だ。

 だが、奇跡の代償は決して安くない。

「今日もよろしく頼みます」

 奇跡の代償として、バレエダンサーである俺はバレエ人生を捨てた。

 俺がバレエの世界で脚光を浴びるのは不可能だったんだ。

 だから独自のバレエ団を設立し、偉大なるダンサーを輩出するため心血注いでいる。

「――――」

 たまの海外公演から帰還しても、翌日には早朝から稽古に打ち込む。

 朝の六時、この時間はいつも稽古場の掃除をするんだけど。

 何て言うのかな……今日も予感がして来てみれば、俺よりも早く彼女が来ていた。

 彼女はバレエピアニストとして、我がバレエ団には欠かせない存在だ。

 前言したように、いつもなら掃除に当てているこの時間。

「――」

 俺は胸に充溢する奇跡を感じて、掃除はせず、踊っていた。

 だから、だからさ。

 もしもこの世界にバレエの神様がいるのなら、認めてくれよ。

 今、稽古場で起こっている奇跡から、目を逸らさないで欲しい。

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