第53話 Sランク冒険者

 「そうか、宰相が暴走していたのが原因か……。しかしなぜそんな宰相を重用したんじゃろなぁ」

 「テルクシノエ側にも何等かの思惑があったのではないかと思いますが、そこまでは調べきれませんでした」


 今回の戦争についての報告を、メティスのルドベキア王だけでなく、宰相のカーネルとギルマスを交えて王城の一室でしている。無用な混乱を避けるため、カクタスのときと同じく、テルクシノエの宰相がアークデーモンだったことは伏せている。

 コの字になったソファーで、悠真の反対側に座っているギルマスが、ルドベキア王に続いて口を開いた。


 「さすがユーマだな。前回の魔物の活性化のときもそうだったが、調査だけでなく根本的に解決してもどってくるとは」

 「あのときは冒険者ギルドの方々が協力してくれたお蔭ですよ。今回も色々と領主様が協力してくれたお蔭で、テルクシノエにも入国できましたし、有力な情報も手に入りました」

 「ルドベキア王、1つ提案が御座います」


 悠真に話しかけていたギルマスが、いつになく真剣な顔をして国王に向き直った。


 「ん? なんじゃ」

 「現在ユーマはAランクですが、前回の魔物の活性化の件と今回の功績の件で、Sランクに昇格を提案いたします」


 Sランクになると、冒険者ギルドだけでなく、国もその実力や人格などを認め、その者に対する信頼の裏付けとなる。そのためSランクに昇格するには様々な条件があり、それらの条件をクリアすることは至難の業だ。そのため現在はSランクの冒険者がいない。

 しかしながら悠真は、冒険者ギルドでの功績も非常に高く、国への多大なる貢献及び国王の推薦という条件をクリアし、国内の貴族2名以上の保証もクリアできるだろうと考えたギルマスは、ルドベキア王に昇格を提案した。


 「そうじゃの。ユーマにはSランクが相応しいかもしれんの。カーネル、手続きを頼む」

 「かしこまりました。メティス国として、ユーマ殿をSランクとして認める書状をしたためます。保証人の貴族2名はいかがいたしましょうか」

 「ルシアンとブレットでどうだ。ポテトチップスの件があるからブレットも嫌とは言えないじゃろ。それに公爵家2名の保証人なら、対外的にも問題ない」

 「かしこまりました。そおの2名で進めさせて頂きます」

 「そうじゃ、テルクシノエにも声をかけたらどうだ。2国で連名の書状であればさらに重みが増すじゃろ。それにメティスを先頭に、続いてテルクシノエの連名にすれば、国の力関係も対外的に示せるしの。今回の件でテルクシノエは連名順については拒否できまい」

 「ではその様に手配させて頂きます」

 「えっと……俺の意思は関係なく進むんですか?」


 悠真の意思確認は行われず、ギルマスの提案が、ルドベキア王と宰相のカーネルによって、Sランク昇格に必要な手続きや条件確認などが次々と進んでいく。


 「ユーマ、お前はそれだけのことをしてきたんだ。ありがたくSランクを拝命しとけ。俺の記憶が正しければ、Sランクは現在お前1人だ」


 ギルマスが悠真にSランクを拝命するよう伝えると、口には出さないがセラとリリーは、まるで自分の事のように嬉しいのか、これ以上ないくらいの笑顔になり、今にも飛び跳ねそうになっていた。

 カクタスはSランクに興味は無く、「早く帰宅してのんびりとしたい」そう考えていた。


 「そうじゃ! 我が国からSランクが誕生するんじゃから、お披露目もしないといかんの」

 「メティス国を挙げてのお披露目になりますな。詳しい打ち合わせなどはユーマ殿のご都合に合わせて後日いたしましょう」

 「お披露目とか止めて欲しいんですけど……」

 「何を言うか。Sランクのお披露目をすることで国民が知ることになれば、国民感情が高まり国が活気で溢れるんじゃ。経済効果もあるし、良い事づくめじゃ」


 ルドベキア王、カーネル宰相、ギルマスの3人に説得され、セラやリリーの嬉しそうな顔を見て、悠真はSランクの拝命、お披露目を受け入れることを決めた。




 ルドベキア王に報告した日の夜、寝入った悠真は三度白い部屋に来ていた。


 「まずはSランク昇格おめでとう」


 そう話しかけてきたのは、悠真をアマルテアへと転移させたエリア担当神のシードだ。その斜め後ろには見たことのない女性が笑顔で立っている。


 「有難う御座います。でもスキルの恩恵がかなり大きいと思いますけどね。今回はダンジョン攻略とかしていませんが、どうされましたか?」

 「まずは紹介しようか。以前、アマルテアを管理していたメルの後任が決まったんじゃ」

 「初めまして。シード様から引き継ぎ、アマルテアを管理する女神のカメリアと申します」


 気品のある佇まいをした、おっとりした印象のある女神だ。


 「悠真と申します。よろしくお願いします」

 「それでの、今回来てもらったのは、カメリアを紹介したかったことと、以前に依頼した魔素のバランスと人類の繁栄についてじゃ」


 悠真がこのアマルテアで取り組んでいること――ダンジョン攻略と魔物の討伐による魔素のバランスの調整と、人類の繁栄のサポートについて話があると言う。


 「何かまずかったでしょうか?」

 「いや、その逆での、以前に孤児を冒険者として鍛えたじゃろ。この先、あやつらがダンジョン攻略と魔物の討伐だけでなく、お主がしたように冒険者の育成にも取り組むようになるんじゃ。その孤児に育成された冒険者もまた、活躍するみたいでの……」


 あの孤児達が将来一流の冒険者として活躍するだけでなく、後進の育成にも取り組み、全体的に冒険者の質が上がるだけでなく、樹形図の枝の様に冒険者の協力関係が無数に広がっていく。


 「アドニス達が頑張ってくれると、なんか俺も嬉しくなりますね」

 「それに加えての、アークデーモンが発生したじゃろ。あれが想定外でのぉ……」


 本来であればアークデーモンが発生する前にダンジョンが発生するらしく、今回は何等かの要因にてさらに濃い魔素が溜まってしまい、アークデーモンが発生したみたいだ。魔素消費の効率では、ダンジョン攻略と比べてアークデーモン討伐の方が効率が良く、そのため当初の予定よりも早めにバランスが取れる算段がついたらしい。


 「と言うことは、ダンジョン攻略や魔物の討伐は近々バランスが取れるから、力を入れる必要が無いということですか?」

 「近々と言っても十数年先だがの。どちらかというならば、今後は人類の繁栄を頭の片隅にでも入れながら、自由にアマルテアで過ごしてもらえると嬉しいのぉ」

 「かしこまりました。食だけじゃなく娯楽なんかも良いかもしれませんね」

 「人の心を豊かにするためにも、娯楽は良い考えじゃのぉ」

 「上手くいくか判らないですが、2号店が軌道に乗り次第、早急に取り組んでみます」

 「うむ。頼んだぞ」


 前回と同じく、悠真の視界が暗くなり、気が付くと夜が明けていた。




 いつもより早く目が覚めた悠真は、どんな娯楽をアマルテアで広めようか、どんな娯楽が大衆受けするのか、ベッドの上で考えている。


 「年齢層に関係なく一緒にできること……。初期導入のコストも安く、ルールも簡単で手軽にできる方がいいな……」


 ベッドに横たわりながら目を瞑った悠真は、日本での思い出を振り返った。

 大学時代は匠達と5人で遅くまでお酒を飲んだり、麻雀、パチンコなどにはまり、中学、高校生の頃は部活や、TVゲームをしていたが、小学生の頃は父親とオセロや将棋を夢中でしていたことを思い出す。


 「オセロか……。ルールも単純だし、子供から大人まで、幅広く楽しめるな……」


 オセロをどの様に作り、普及させるか考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。


 「ご主人様、おはよう御座います。朝食の準備がそろそろ整います」

 「おはよう。とりあえず朝食食べて、今日も頑張るか!」


 娯楽の前にまずは2号店だと気合いを入れた悠真は、セラに促され朝食を食べに向かう。

 その後ろ姿はいつもと変わらず、頼りがいのある姿だった。

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