第52話 討伐
「なるべく殺すなよ!」
「兄貴! 手加減難しいっす!」
「足を狙うニャ!」
リリーは膝の下くらいの位置から、無数のフレイムアローを放ち、セラも兵士達のふとももを狙い、機動力を奪う。
カクタスは手当り次第に殴り、入口の方に蹴り飛ばし、これ以上兵士が入室してくる邪魔をする。
「へぇ。なかなかやるわね貴方達」
「まぁね」
悠真は宰相に向かって剣を構えると、宰相をかばう様に兵士が間に割り込んでくる。
「俺が宰相様を守るんだ!」
兵士が叫ぶと同時に悠真に向かって剣を振り下ろすが、悠馬は身体をひねり紙一重でかわすと、兵士の横腹に蹴りを入れ吹き飛ばし、再び宰相と対峙した。
「兵士達が邪魔だな……」
「あら、私を守るために頑張ってる人に、酷いこと言うのね」
狭くはない部屋だったが、兵士達が突入してきたため窮屈になり、動きが制限されている。広い場所に出ないとまともに剣も振れないと考えた悠真は、宰相に向かって走りだし、剣を納めた。
まさか剣を納めるとは思っていなかった宰相は虚をつかれ、懐に入られてしまう。
悠真は右拳で鳩尾を下から突き上げ、左拳でボディーに打ち込むと、宰相の腕を取り、背負い投げの様に窓に向かって投げつけた。
窓が割れる音で視線が集まり、宰相が2階から投げ落とされた姿を見た兵士は発狂すると同時に、宰相を追うように2階から次々と飛び降りた。
「俺らも出るぞ。さすがにあれだけ人がいるとこの部屋でも狭い」
窓から比較的安全と思われる場所に5点着地で飛び降りた悠真は、剣を抜き宰相の下へ走り出す。
「頭きた! 私を投げ飛ばすなんて生意気! 絶対に許さない!」
宰相は走り寄ってくる悠真に向けて、無数のアーススピアを打ち出すが、悠真が同じ土属性のクリエイトシールドで防ぎながら、宰相を剣の間合いに捕えた。
逆袈裟に斬りつける悠真だが、肉薄した距離からアーススピアを打ち出され、回避する悠真。
その斜め後ろからリリーが悠真を援護しようと無数のフレイムアローを宰相に向かって打ち出すが、宰相はバックステップで回避を試みたが、悠真が宰相を追いかける。
「はぁ? あなた正気なの?」
まさか仲間の打ち出したフレイムアローの射線に、自ら飛び込んでくるとは思っていない宰相は油断してしまい、悠真に逆袈裟に斬られてしまうが、悠真もリリーの放ったフレイムアローをまともに被弾し、吹き飛んでしまった。
「ご主人様!」
「兄貴!」
「ごめんニャ!」
吹き飛んだ先で悠真は平然と立ち上がり、無事をセラ達に伝える。
「ふぅ、俺は大丈夫」
射線に入り、被弾することは想定済みで宰相を追いかけた悠真だが、魔法耐性Sのため吹き飛ばされはしたが、ダメージはほぼ無い。セラ達も魔法耐性のことを忘れ焦っていたが、まさにチートゆえにできた攻撃だった。
「やっぱり兄貴はすげぇや」
「さすがですご主人様」
悠真は宰相に近づいて行くと、まともに逆袈裟で斬られ、おびただしい出血をしており、今にも息絶えそうな雰囲気だ。
「油断したわ……」
「実はちょっと怖かったけどな」
魔法耐性Sのお蔭でダメージはほぼ無いと判っていても、まともに被弾するため、バックステップで回避した宰相を追って、一歩踏み込むのに勇気が必要だった。
「アークデーモンの私を倒すとか貴方って一体……何者なの?」
「普通の冒険者……じゃないかな」
「はぁ……。人間共の戦争見て楽しみたかっただけなのに……」
「それが迷惑なんだよ」
「まぁいいわ……。宰相になってからも楽しませてもらったし……」
目を開けていることも大変なのか、目を瞑った宰相。
「次に会ったら、貴方には負けないからね……」
そう言うと宰相は黒い靄とともに霧散し、出血の痕跡すらも残っていなかった。
「終わったな」
「お疲れ様でしたご主人様」
「お疲れニャ」
「兄貴……俺は討伐されないっすよね……大丈夫っすよね……」
目の前で同格のアークデーモンが霧散したのを目の当たりにしたカクタスは、悠真に改めて恐怖を覚えていた。
「まぁ、今のところ大丈夫だろ。さて、重傷者の手当てして回るか。セラとカクタスは軽傷者と重傷者の選り分け、俺が重傷者を看るから、リリーは治療魔法で軽傷者の手当てを頼む」
「了解ニャ。傷を治すニャ」
悠真が辺りを見回すと、2階から飛び降りた無数の兵士が気を失い横たわっていた。
「はぁ……。でもこの人数はかなり大変だな……」
兵士の治療を終えた悠真は、応接室に通され、白髪と白髭が印象的なテルクシノエの国王と面談している。
「今回の件、本当に助かった。あのまま開戦されていたら、我がテルクシノエが滅ぶのは時間の問題だった。ユーマ殿には本当に感謝している。有難う!」
「本当は戦争の目的を調査して、そこから戦争を回避する予定だったんですが、結果として戦争を無事に止められて良かったです。ところで宰相様は田舎の方へ行ったと聞きましたが……」
「直ぐに行方を探すよう手配した。あいつの代わりを任せられるやつはまだいない。ワシにはあいつが必要なんじゃ」
テルクシノエの国政をほとんど取り仕切っているのが宰相のため、早急に連れ戻すか、代理を立てる必要があった。
「ところでユーマ殿、大変申し訳ないんじゃが、今回の件を公にすることができんのじゃ。公にしても国民に混乱をもたらすだけでしかない。そのため勲章や爵位などの授与ができんのじゃが、代わりに欲しい物はあるかの?」
「爵位や勲章が欲しいわけではないので気にしないで下さい。それに何か欲しい物と言われても、特にはないので……」
「屋敷はどうじゃ? このプレウムに屋敷を構えたら良い」
「お申し出は大変ありがたいのですが、現在チターニアで屋敷と店を改築中でして、明日にでもプレウムを出発して帰還しようと考えております」
「寂しいのぉ。このままプレウムに永住してくれたら良いのに」
チターニアのギルマスと同じ考えなのだろう。優秀な冒険者をとにかく確保したいという考えが、ひしひしと悠真に伝わってくる。
「何か欲しいものがあったら連絡するが良い。直ぐに手配するぞ」
「有難う御座います。その時にはお世話になります」
プレウムを出て悠真達は、テルクシノエの軍勢が各々が所属する街へと散開していく様子を見ながら、タルクエクに向かって進んでいた。
「無事戦争は回避できたな」
「そうですね。さすがご主人様です」
改めて戦争が回避された様子を目の当たりにして安堵した悠真は、タルクエクに到着すると、領主の屋敷へと足を運び、ソファーに座り領主と面談している。
「ユーマ殿、有難う。お蔭で戦闘は回避できたよ」
「領主様が睨んだ通り、宰相が戦争を進めていました。今は前宰相を捜索中ですが、直ぐにお戻りになって復帰されると思います」
「そうか。直ぐには以前のように戻れないかもしれないが、それでも確実に改善されていくだろう。さすがAランクの冒険者だな」
「宰相のお話しを領主様から聞けたお蔭です。あのお話しを聞けてなかったら、時間がかかって戦争を回避できなかったかもしれません」
王城での詳しい経緯や出来事などを報告した悠真は、テルクシノエの国王と同じく、屋敷などを与え、住まわせようとする領主をかわし、メティスのルドベキア王に報告するために、その日のうちにメティスへと帰国した。
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