第43話 降伏

 「本当はしたくなかったが、勝つためには仕方なかったんだ。許せ」


 悠真にフレイムアローが直撃したことで勝ちを確信したカクタス。

 シャドウバインドの拘束も無くなったことで、自由に動けるようになったセラは、ポーションを取り出し、砂煙がもうもうと上がっている中、涙目で悠真の下へと走り出す。


 「ご主人様! わ、私のせいで! 申し訳御座いません! ポーションを、ポーションをお持ちします!」

 「ニャニャ! 大変ニャ!」

 「グルァ」


 リリーとグリも悠真の下へと走りだし、安否の確認を急ぐ。


 「はっはっは。俺の魔力のほとんどを費やしたフレイムアローだ。死んでなくともピクリとも動かねぇだろうよ。雑魚が調子に乗るからこうなるんだよ。次はお前らが相手になるか?」


 カクタスはセラ達に向かって話しかけるが、セラ達はそれどころではない。

 あれほどの魔力を込めたフレイムアローを、セラの代わりに受けた悠真の安否確認が最優先される。


 「おいおい、俺を無視すんのか? 雑魚共が群れやがって、調子に乗るなよ」


 レッサーデーモン達4体はカクタスの方へと移動し、後方に控えた。

 砂煙が徐々にはれだすと、カクタスからセラ達の様子が見えてくるが、何やら様子がおかしいことに気が付く。


 「あ? あいつら何してんだ?」


 1つの人影を中心に輪になって囲んでいる。中心の人影は悠真だろう。


 「ご、ご主人様、ポーションをお持ちしたのですが……」

 「あ、ああ……」

 「ご主人様、大丈夫かニャ?」

 「大丈夫……だと思う……」

 「グルゥ」

 「グリも心配してくれてありがとう。でも、本当に何もダメージが無いんだ……」


 直撃したであろう場所にキズすらない。


 「背中に衝撃と針がチクッとしたくらいの痛みはあったんだが……。まさかノーダメージとは思わなかったよ」


 良くて瀕死だろうと思われた攻撃だったが、直撃したにもかかわらず、全くのノーダメージだったことに、当の悠真も驚きを隠せないでいた。


 「なんでノーダメージなんだろう……全く理解が追いつかないんだが……」

 「ご主人様のスキルで、過去に何かされたとか、そんなことは御座いませんか?」

 「俺のスキルか……。あっ! わかったかもしれん」


 ふと思いついたことがあり、悠真は自身に鑑定を使用する。


 斉藤悠真(18)

  ギルドカードA

  身体能力S

  魔力S

 スキル

  エディットver.2

  鑑定S

  戦闘の心得S

  魔法の心得S

  生活魔法

  気配察知D

  隠密D

  精神耐性D

  物理耐性S

  魔法耐性S

  テイミングS


 魔法耐性S

 あらゆる魔法に対する耐性を備え、適正に合わせてダメージを軽減する。適正Sでの軽減率は99%。


 「魔法耐性S、これが原因だな……。ダメージの99%を軽減するらしい。フォボスダンジョンを攻略した後に、物理耐性と一緒に入手してたスキルだな。すっかり忘れてた」

 「――ッ! ご主人様、それってほとんどの攻撃が、ご主人様にとって無効ということではないでしょうか。ダメージを受けずに、一方的にダメージを与えるだけ……ご主人様にとって敵はいない、無敵じゃないですか!」

 「ご主人様凄いニャ!」

 「グルゥ」

 「今まで全部回避することに専念してたからなぁ。もっと早く気付きたかったなこれは」


 実際には、フォボスダンジョンのボス戦でくらった攻撃によって適正Eを入手し、翌日にSにしていた。

 実際に物理耐性や魔法耐性といったスキルを入手するには、毎日拷問とも言える痛みを起きている間ずっと味わい、早くて3か月、普通は半年続けると適正Eを入手できるが、誰も入手したことがない。むしろ苦痛耐性や、精神耐性の方が早くとれる始末である。


 「でもこれってチートスキルだよな……。ほぼノーダメージでいけるなら、回避する必要を見出せなくなる」

 「チート……ですか?」

 「このスキルってずるいなって思っただけだよ」

 「そうですね、私も今まで聞いたことが無いスキルです。でも適正がSだからじゃないでしょうか。Eだとそこまで有用だとは思えませんが……」

 「リリーも聞いたことが無いニャ」


 一方でカクタスは、ノーダメージの悠真を見て愕然としていた。


 「ありえないだろ……。俺のほとんどの魔力を使ったんだぜ。それなのにノーダメージとか……。あいつヤベェよ」


 もちろんカクタスも自信を持っている攻撃だった。それなのにノーダメージだったことに、自信をポキッと折られた気がするとともに、膝から崩れ落ちた。


 「ってかこんな化け物に俺勝てるのか? このままじゃ俺ヤベェんじゃねぇか……」


 かなり不利な状況に置かれ、勝ち目はほぼ無いに等しい状況の中、カクタスが取った行動は、悠真の下へと駆け寄り、土下座による降伏――命乞いであった。


 「申し訳御座いませんでした! グリフォンは諦めるっす。街も襲いません。魔物も開放するっす。これからはひっそりとこの渓谷で、誰にも見つからないようにして暮らすっす。だから、だからどうか許しては頂けないでしょうか。お願いします!」


 両手両足を地につけ、反省しているとばかりに、悠真を見上げていた額をも勢いよく地につけたカクタス。

 あまりの変わり様に唖然とする悠真達だが、素直にその言葉を信用することはできないが、とりあえず話をしてみることにした。


 「とりあえず色々聞くぞ」

 「はい、何でも聞いて下さい。あ、こいつら邪魔っすね。消しますんで!」


 カクタスが手を払うと、後ろに控えていたレッサーデーモンを魔素に還した。

 悠真はやけに素直だなと思いつつも、せっかくなので疑問に思っていることを聞くことにした。


 「まず、そもそもお前はなんだ。なぜここにいる?」

 「気が付いたらここにいたっす」

 「それじゃわからんだろ。きちんと説明してくれ」

 「いや……でも、気付いたらここにいたんすよ。本当っす。それで少しでも楽ができればいいなと思って、狩りをしてもらうために、グリフォンのタマゴを孵化させようとしたっす」


 カクタスは馬鹿なのか、詳しく聞くまでにかなり時間がかかったが、魔素を基にカクタスは生まれたらしく、その消費量からアークデーモンになったこと。悠々自適な生活のために魔素からレッサーデーモンを召喚したこと。特に目的があって行動しているわけではないことなどを聞き出した。


 「許してもらえないっすか……。迷惑かけるようなことはもうしないっす」

 「悪魔は悪さをする変な生き物ニャ」

 「ちょっ、おまっ、黙ってろよ! お前には関係ねぇだろうが!」

 「ご主人様、こいつの地が出たニャ。やっぱり信用できないニャ」

 「ひ、卑怯だろ! 本当に悪さはしないっす。信用して欲しいっす。頼むっす!」


 涙目で悠真に訴えかけるカクタスだが、その言動からどうにも信用ができない。


 「信用できんな」

 「そんな……。やっぱり俺はここで消される運命なんっすか……」


 そこでふと思いついたことを話してみる悠真だが、この選んだ選択肢が良いのか悪いのか、どういう結果をもたらすのかわからない。


 「若干顔が青白いけど、見た目は人とかわらんし、俺の手元に置いとくわ。もし裏切るようなら、その場で討伐するけど、今消されるよりは良いだろ?」

 「まじっすか! 兄貴! 有難うございます! 兄貴を裏切るようなことは絶対にしません!」

 「兄貴か……。セラとリリーはそれでいいか?」

 「ご主人様の御心のままに」

 「ご主人様が良いなら、リリーはなんでもいいニャ」

 「お前ら……。さっきはすまなかった。これからはマブダチとしてよろしく頼むな!」

 「マブダチって何ですか! これからは私達の後輩になります。言葉使いはきちんとしなさい!」

 「お、おぅ……」

 「セラは怖いニャ。カクタスも気を付けるといいニャ」

 「リリー、そんな先入観を植え付けないで下さい」

 「事実ニャ」

 「リリー、後で少しお・は・な・ししますか?」

 「嫌ニャ」

 「セラもほどほどにな。カクタス、スコルの冒険者ギルドや国に、悪魔の件について報告する必要があるんだが、何か悪魔がいたという証拠的なものはないか? 悪巧みをしていたので、討伐したと報告して終わらせたいんだが」

 「これはどうっすか?」


 カクタスが取り出したのは1本の三叉槍さんさそうだ。よく悪魔が持っている三叉になっている槍だ。


 「素材は魔素に還ったことにして、これを持っていたと渡せば証拠になると思うっす」

 「んじゃこれは提出用に貰っとくわ。んじゃ街に戻るぞ。あ、周りにアークデーモンってバレたら、俺も騙されてたってことにして討伐するからな。ゴタゴタに巻き込まれるのは嫌だから」

 「ケツ持ちは自分でやるから大丈夫っす。兄貴はただいてくれればいいっす」


 不安は残るが、なるようになるかと考えた悠真は、スコルへと帰還の途に就いた。

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