第44話 ギルドに報告

 悪魔調査の件が終わり、スコルへと帰還中の悠真達。カクタスは悠真の若さでなぜそれほどまでに強いのか、疑問を感じていた。


 「兄貴の強さの秘密ってあるんっすか? 自分も兄貴みたいに、もっと強くなりたいっす」

 「秘密かぁ。まだ教えられんな。とりあえず言えるのは、はっきりとした目標を持って、そこに至るには何が足りないか、足りないものを埋めるにはどうするかを考えることだな」

 「自分は経験っすかね。まともにやり合ったのは兄貴が初めてみたいなもんですから。それを埋めるには旅をして、色々な戦闘経験を積むこと。どうっすか?」

 「そんな感じで取り組めば良いと思うぞ。ただ、俺より強くなったらお前裏切るだろ」


 アークデーモンのカクタスが悠真より強くなった場合、誰も止められなくなることは想像に難くない。


 「兄貴を裏切るなんてとんでもない! 一生ついて行きます!」

 「まずは言うだけじゃなくて、信用を得ような。とりあえず1つだけ俺の秘密を教えるが、常人よりスキルを得やすい体質みたいだな、俺は」

 「それ凄いっす! スキルは本来なかなか得られないっすよ。 それならもっと色々なスキルを得たら、もっと強くなるんじゃないっすか?」

 「そうかもしれん。魔法を全種類覚えてみるのも、楽しいかもしれんな」

 「すいません兄貴。魔法は無理っす。生まれ持った適正か、マジックアイテムを使うしかないっす」

 「セラ、そうなのか?」

 「はい、そうです。ただ、そのマジックアイテムが非常に高価でして、さらに滅多に市場にも出回らず、一生目にすることが無い人が多いです」


 魔法適正を得るマジックアイテムはレア中のレアアイテムだ。供給がほぼ無いに等しく、しかも自分の欲しい属性をその中から探すとなると、入手はほぼ不可能に近い。


 「そうか。物理と魔法耐性があるし、近接攻撃ならスキルあるし、足りないのは俺も経験か……」

 「近接攻撃って武器のスキルっすか? 兄貴はどんな武器が得意っすか?」

 「剣術、槍術、棒術、杖術、弓術とか他にも色々使えるんじゃないかな」

 「マジっすか……。勝てるわけねぇっす。兄貴に喧嘩売った俺は馬鹿でしたわ……。姉さん達もっすか?」

 「姉さん? マブダチじゃなかった?」

 「いえ、マブダチなんて恐れ多いっす。自分は舎弟にしてもらいました」


 相手は一応、アークデーモンである。そのアークデーモンにあれから今までの短時間で、セラは一体何を話したのか……。


 「俺はどっちでもいいけど、仲良くしてくれよ」

 「もちろんっす! パシリでもなんでも使ってくれてかまわないっすよ」

 「カクタス、リリーはビール飲みたいニャ」

 「了解っす。今すぐこいつらに買いに行かせます!」


 カクタスは魔素を使いレッサーデーモンを召喚すると、スコルまでビールを買いに行かせるための指示を出す。


 「おい、リリー姉さんのビールを買って――」

 「ちょっと待てや!」


 カクタスは剣の腹で、悠真に思いっきりが殴られ、吹っ飛んだ。


 「兄貴なんっすか? 今姉さんのビールを買いに行かせるところっす」

 「お前がアークデーモンってバレたら討伐するって言ったよな? お前は早速俺との約束を忘れたのか? それともこの場で討伐した方が良いのか?」


 悠真との約束を思い出したのか、元々青白かったカクタスの顔が顔面蒼白へと変化し、背中には冷や汗を感じていた。


 「すんません兄貴! 勘弁して下さい!」

 「今回は見逃すけど、次にレッサーデーモン召喚したら許さんからな」

 「すんませんした! レッサーデーモンじゃなくて、デーモンとかグレーターデーモンならいいっすか?」

 「馬鹿かお前は……」

 「照れるっす」

 「褒めてねぇよ」




 スコルの街に到着した悠真達一行は、ギルマスに事の次第を伝えるために冒険者ギルドに来ている。


 「悪魔調査の件でギルマスに会いたいんですが、ギルマスは今お手すきですか? Aランクの悠真と言えば伝わると思います」


 悠真はギルドカードを見せ、自分がAランクであることを示し、直接話ができるよう促してみた。


 「はい、ユーマ様がお見えになられたら、応接室に通すように伺っております。ご案内いたします」

 「ギルマスの都合関係なしか……。結果が出てるからいいけど、結果が出てなかったとしたら、この対応は気まずいな」


 そんなことを考えながらも、案内された応接室への入室した悠真達。ソファーに座るのは悠真だけで、残りの3人はソファーの後ろに控えている。


 「あ、カクタスは喋らなくていいからね。カクタスが喋るとややこしくなりそうだし」


 驚きながらも悲しい表情になったカクタス。


 「兄貴、俺も――痛てぇ」

 「ご主人様が喋るなと言ったのですから、喋ってはいけません」


 セラに足を踏まれ、発言も禁止されたカクタスが落ち込んでいると、ギルマスが入室してきた。


 「お疲れ様。どうだった?」

 「結果から言うと、魔物の活性化も、悪魔の目撃も解決しました」

 「ほぅ、さすがAランクだな。詳しく教えてくれると助かる」


 ギルマスはソファーに座ると、前のめりになって悠真の報告を聞いている。

 渓谷では魔物が多く、休憩もなかなか取れなかったことや、群れで魔物が活動していたこと、レッサーデーモンがいたことを伝えた。


 「身長は70センチくらいで、全身が黒く、耳が尖ってましたね。実物を持って帰れたら良かったんですが、討伐したら霧散してしまったので、武器しか残ってないです。これがその武器になります」


 悠真は事前にカクタスから貰った三叉槍をギルマスへと手渡すと、まじまじと注意深く観察し始めた。


 「ほぅ、これが悪魔が使ってた武器か……。先端の形状は初めてみるな……。材質は……その辺にあるのと変わらんか」


 ギルマスに渡した三叉槍は、形状こそ普及していないが、それ以外は一般的なスチールランスと変わらない。

 振り回してみるが、しっくりこないのか首をかしげた後、一緒に入室してきた秘書と思われる女性に手渡した。


 「悪魔が使っていた武器という先入観を除いても、あまり好きになれない武器だなあれは」

 「ギルマスも槍を使っていたんですか?」

 「少しだけな。ところでどれくらいの強さだったんだ?」

 「セラはBランク冒険者ですが、1対1で戦ったとして、負けることはないでしょう。あと、フレイムボールを乱発していたので、火魔法が使えるみたいですね」

 「なるほどな。魔物の活性化の方はどうだ?」


 魔物の活性化については、そのレッサーデーモンの目的がスコルを強襲し、食糧を奪うこと、その下調べで魔物を使い、周辺を調査していたため活性化していたことなどを伝えた。


 「さすがAランクだな。その調査能力もさることながら、それをその場で解決してしまうとは……。しかしこの街が襲われてたら、王都で食糧難が発生していたな。有難う。助かった」


 ソファーに座りながらではあるが、膝に手をつき頭を下げたギルマス。


 「いえ、結果がそうなっただけですよ。さて、報告はこんなところです。ルドベキア王に報告するために、俺は王都に戻ります」


 悠真が王都へ帰還する旨を伝え、立ち上がると、ギルマスが悠真を引き留めた。


 「すまんがちょっと待ってくれ。実は受けて欲しい依頼があるんだが、ユーマにも悪い話しじゃないからちょっと聞いてくれ」


 俺に悪くない話しってなんだ? と思いながらもどんな話か気になった悠真は、再びソファーに腰を下ろした。


 「実はな、魔物が活性化していたから商業ギルドと相談して、リスクヘッジのために1回の輸送量を減らしていたんだが、ユーマが解決してくれたから商業ギルドと相談して、次の輸送で量を増やそうと思う。そこで、王都への帰り道でその商隊を護衛してくれんか? 全部で大型の馬車10台前後になると思うから、冒険者も10人前後を考えている」


 比較的安全な街道だから襲われる心配はほぼないだろう。それに加えて王都へ帰る予定の悠真達には、特に断る理由はない。


 「わかりました。その依頼を受けさせてもらいます」

 「そうか。安全な街道ではあるが、輸送量が多いからな。高ランクの冒険者がいた方がリスクは低くて済むから助かる。日程などは商業ギルドとこれから相談するから、決まり次第連絡する。しばらくこの街でゆっくりしててくれ」


 輸送の準備も含め、どれくらい先の出発になるかわからないが、街を散策し、ときには適当な依頼でも受けて過ごそうと思った悠真であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る