第42話 発見

 ギルマスとの面談をした翌日、悠真達は食料などの必要物資を購入し、目撃情報が一番多かった街の東の渓谷に来ている。


 「リリー、あそこにいるアーチャーの群れを頼む」

 「了解ニャ」


 そう言うとフレイムアローをいくつも飛ばし、ゴブリンアーチャーの群れを攻撃する。

 ゴブリンアーチャーは矢を飛ばしてくるものの、リリーは回避しながらフレイムアローで群れを壊滅させる。

 「セラ、左側のリザードマンの群れをグリと一緒に頼む。俺はこっちのリザードマンの群れを対応する」

 「承知しました」

 「グルゥ」


 悠真はリザードマンの群れに突撃すると、まずは1匹を逆袈裟に斬りつける。

 するとその後ろから槍で突いてきたため、袈裟切りにしたリザードマンを軸に回転し、槍を持ったリザードマンを右から横薙ぎにし、反す刀で別のリザードマンを袈裟切りにする。


 「やられる事はないだろうけど、これだけ魔物の数が多いと大変だな」

 「確かにこの数は異常とも言えると思います」

 「多いニャ。大変ニャ」

 「グルゥ」


 この面子で唯一楽しんでいるのがグリだ。

 風魔法のエアカッターで、リザードマンの身体を上下バラバラにしたり、リザードマンに飛びかかり、足で踏みつぶすなど、遊び相手とばかりに乱獲している。

 ある程度狩りが進んだ頃、目に見える範囲には魔物がいなくなったため、休憩をしようと岩に腰かけた。


 「ふぅ。少し休憩だな」

 「これだけ魔物が集まっているということは、悪魔がここで指示を出しているんでしょうか」

 「その可能性は否定できないな。どんな指示を出しているのかだけでも今回持ち帰れるといいな」

 「そうですね。それができると、今回の件が大きく進むと思われます」


 そんな会話をしていた悠真達の前に、身長は70センチほど、全身が黒く、目は充血しており、尖った耳をした悪魔が視界に入った。


 「――いたぞ!」


 悠真の声にセラとリリー、グリも悪魔を見つけると、悪魔がフワフワと飛びながら近づいてきた。


 「ミツケタ。報告、スル」


 それだけ言うと悪魔は音もなく姿を消し、辺りには静寂に包まれた。


 「今のは、悪魔……だよな?」

 「そうニャ。悪魔ニャ」

 「見つけたってのは……俺か?」

 「もしかするとグリかもしれません。現存するグリフォンは恐らくグリだけでしょうから」

 「見つけたってのがグリだと仮定するなら、悪魔は魔物を使って、グリを探していた……? なぜグリフォンがいることを、悪魔は知っているんだ?」

 「申し訳御座いません。皆目見当もつきません」

 「とりあえず一旦、俺達もギルマスに報告しに戻るか」


 スコルへと帰還するために、渓谷の出口へと歩を進めている悠真達。その目の前に先ほどの悪魔が2体と、1人の男が空から飛んできた。


 「おいお前! やっと見つけたんだ。逃がさねぇぞ」


 悠真達の行く手を阻む男達。その背中には黒く立派な翼が生えている。


 「お前も悪魔……なのか?」

 「俺をこいつらレッサーデーモン下位悪魔と同じにするんじゃねぇよ。俺はカクタス、アークデーモン大悪魔だよ」


 悪魔の階級はデーモンロード悪魔王アークデーモン大悪魔グレーターデーモン上位悪魔デーモン中位悪魔レッサーデーモン下位悪魔に別れている。


 「そのアークデーモンが俺に何の用だ? そもそも魔物を使って何をしてるんだ?」

 「おいおい、俺のグリフォン横取りしたくせに何言ってんだお前。返せよ」

 「返せ? おかしなこと言うなよ。グリは俺がタマゴから孵化させたんだ。返せっておかしいだろ」

 「何も知らねぇんだから、グチグチ言わずに返しとけばいいんだよ。それに、お前が孵化させるとか無理だから」


 悠真が発見したグリフォンのタマゴ、実はあれをディオネダンジョンに安置したのはこのカクタスであった。

 ある程度成長したグリフォンのタマゴを孵化させるには、膨大な量の魔力が必要になる。そのため、成長途中で魔力が必要になる前のタマゴを、ダンジョンの端っこに安置して隠すことで、少しずつ冒険者から魔力を吸い出し、孵化させる計画をカクタスは企てていた。

 そろそろ孵化しているだろうとダンジョンに見に行ってみれば、グリフォンがいない。そのグリフォンを探すために、レッサーデーモンを召喚し、レッサーデーモンが魔物を使ってグリフォンを探していたというのが事の真相だ。


 「わかったか? わかったならグリフォンを返してもらうぞ」


 グリフォンにカクタスが近づこうとするが、悠真とセラ、リリーがそれを止める。


 「なぜあそこにグリフォンのタマゴがあったのかは理解した。だが、グリを返すのは話は別だ。俺はグリを渡すつもりはない」

 「ほぅ、俺様相手に生意気な口を利くんだな。普段は温厚な俺様もさすがに怒るぞ」

 「怒るとどうなるんだ?」

 「力ずくで奪い返してやるよ。あとはそうだな……こいつらに街でも襲わせるか?」


 カクタスはレッサーデーモンを指差し、ニヤッと笑みを浮かべた。


 「そうか。ならやるしかないな。セラとリリー、グリはレッサーデーモン2匹を頼む。俺はカクタスの相手をする」

 「承知しました」

 「了解ニャ」

 「グルゥ」

 「ほう、アークデーモンの俺とタイマンか? その鼻へし折ってやるよ」


 するとカクタスは悠真に接近し、顔に向かって物凄い早さで蹴りを連続で放つが、悠真は腕で完全に防御する。このままではらちが明かないと判断した悠真は、腰を落として回避すると同時に、足払いを仕掛ける。

 カクタスはバックステップで回避するが、それを読んでいた悠真は袈裟切りで斬りかかり、攻守が逆転した。

 しかしこの攻撃は、カクタスがバックステップしながら放ったフレイムアローを回避するために、やむを得ず中断した。

 いきなり息もつかせぬ攻防を繰り広げる悠真とカクタス。一方ではレッサーデーモンとの戦闘が始まっていた。


 「リリー、グリ、まずは1体やるわよ」

 「了解ニャ」

 「グルゥ」


 セラが攻撃をしかけると、それに合わせてリリーがフレイムアローを放つ。レッサーデーモンが余裕といった表情でフレイムアローを回避すると、グリが待ち受けていた。


 「グルァ!」


 グリは思いっきり爪を振り下ろしたが、レッサーデーモンは紙一重でそれを回避、しかし回避した先にはセラが剣を振り被りながら待ち構えていた。


 「もらった!」


 セラは剣を振り下ろし、レッサーデーモンを縦に真っ二つにしたところで、レッサーデーモンが霧散し、1体を討伐した。


 「残り1体にゃ」

 「グルァ」


 グリが勢いよく残りの1体に体当たりを仕掛け、セラの方に吹き飛ばした。


 「グリ、ナイス!」


 そう言うと横薙ぎに剣を振ったセラだが、間一髪で翼を使って飛び上がったレッサーデーモン。


 「オマエタチ、コロス」


 上空から手当り次第にフレイムボールを打ち出した。

 セラは避け、リリーはフレイムアローを打ち返し、グリは飛び上がり爪で攻撃を仕掛ける。

 そんな攻防を続けていると、遠くに新たなレッサーデーモンが3体見え、カクタスの下へ向かって来ている。


 「リリー、新手が3体向かってきてる。早く倒すよ!」

 「了解ニャ」




 悠真とカクタスの攻防は今も続いている。


 「おらぁ! さっさと降伏しろよ!」

 「グリのためにも負けられないんでね! そっちが降伏したらどうだ」

 「うっせーよ!」


 そんな会話とともに繰り広げられる攻防だが、両者の攻撃が当たらず、決着がつかない。


 「お前もしぶといな。本当はしたくねーけど、勝つためだからな……」


 カクタスは何か自分に言い聞かせ、ため息を吐いた次の瞬間――。

 レッサーデーモンと戦闘中のセラに向けて、シャドウバインド――対象の影を拘束することで、本体も拘束する――を背後から発動し、フレイムアローに膨大な魔力を注いでセラに向けて打ち出した。


 「――ッ! う、動け……」

 「セラ!」


 このままではフレイムアローがセラに直撃する。防御を取ることもできずに、膨大な魔力を注いだフレイムアローが直撃すれば、瀕死になってもおかしくない。

 気が付くと悠真はセラの方に向けて走り出していた。

 セラの変わりに悠真がフレイムアローを食らったとしても、かなりのダメージを被るのは間違いない。それはカクタスとの戦闘にも大きく影響が出ることは明白だ。

 だが、それでも悠真は動いてしまった。セラをかばうために。

 その数瞬後、フレイムアローが悠真に直撃した。

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