第32話 チターニアへ帰還

 ダンジョンボス討伐後、悠真達はドロップアイテムの換金と、冒険者ギルドでアドニス達のギルドカードを更新するためにきている。


 「それでは更新してまいりますので、しばらくお待ちください」


 4人分なので少々時間がかかるらしい。冒険者ランクが上がることが、ほぼ確実視されている4人は早く自分のランクを確認したいのか、そわそわと落着きがない。


 「時間かかるみたいだし、先に祝杯を上げる――」

 「待ちます!」


 4人全員が同じ返事だったため、その場で待つことにしたが、セラとリリーに併設されている酒場の席を確保してもらう。グリは相変わらず俺の肩に留まっている。


 15分くらい待つと、受付嬢が戻ってきた。


 「お待たせしました。こちらが更新させて頂いたアドニス様達のギルドカードになります」

 「うぉぉ! Cランクになってる!」

 「うちもCランク!」

 「俺もCランクだぜ!」

 「僕もCランクになってる!」

 「おめでとう御座います。ところで悠真様、言伝を預かっておりますが、少々お時間よろしいでしょうか?」

 「え? 俺に伝言ですか?」


 俺に言伝って、誰からなんだろうと思いながらも聞いてみる。


 「ルビア様から、『なるべく早いお帰りをお願いします』と伝言を預かっております」

 「わかりました。有難う御座います」

 (ルビアがそんな伝言を依頼するくらいだから、何か問題が発生したのか?)


 伝言の意図が解らないまま、ドロップアイテムを換金した悠真達は、併設された酒場でダンジョンボス討伐を祝っている。


 「初ダンジョンボス討伐おめでとう。乾杯!」

 「かんぱーい」

 「ユーマさん達のお蔭でダンジョンボスの討伐もできましたし、Cランクにまでなることができました。本当に有難う御座います」

 「俺はただ見守ってただけだから、アドニス達の実力だって。もっと自信もってこれからも頑張ってな」

 「ユーマっち有難う! マジ感謝!」

 「この前までEランクだったんだぜ! それがユーマさんのお蔭でCランクなるなんて、夢のようだぜ!」

 「僕も嬉しいです。まさかCランクになれるなんて思ってもいませんでした」


 確かに悠真と出会わずに、孤児院の1人として活動していたままでは、ダンジョンボスの討伐は無かったかもしれない。しかし、悠真と出会って、特訓して、ダンジョンボスを討伐した。

 それは間違いなく事実だ。

 それを糧にこれからの冒険者活動に活かしてもらえれば、悠真としても嬉しいはずだ。

 そんな話をしている隣、セラとリリーはビールを堪能している。


 「今日はお祝いだから、ピーチのフレーバービールを飲むニャ!」

 「リリー、お勧めのビールを教えて下さい。今日はお祝いだから飲みますよ!」

 「セラ、2杯までな」

 「……はい」

 「今日はお祝いだし、セラももっと飲んでいいと思うニャ」

 「リリー!」


 まさかリリーからそんな言葉が出るとは思わず、伏せていた顔を起こし、リリーを期待の眼差しで見つめるセラだが……。


 「んじゃ酔ったセラはリリーに任せるけどいいか?」

 「え……それは……嫌ニャ」


 セラはがっくりと肩と落とした。




 ルビアからの言伝が気になる悠真は、ダンジョンボスを討伐した翌日、護衛の依頼を受けて出発日が遅れることを嫌い、アドニス達と乗客として乗合馬車に乗り、チターニアへと出発した。

 道中は魔物に襲われるも、護衛の冒険者の活躍で何の問題もなくチターニアに到着することができた。


 「シスター! 帰ってきました!」


 孤児院に帰ってきたアドニスが大声で帰還を報告する。


 「アドニス! 無事でしたか。ステラとボルガ、リッシも無事で良かったです」

 「うちらダンジョンボスを討伐したよ」

 「Cランクになったぜ!」

 「僕も活躍したんだよ!」


 嬉しそうにダンジョンボスを討伐したこと、Cランクの冒険者になったこと、悠真達がサポートしてくれなければ、全員危なかったことなどをシスターに報告したアドニス達は、マリー達に会いに行った。


 「ユーマさん、本当に有難う御座います。お蔭で子供達が、今まで以上に活き活きとしてます」


 シスターは手を組み、祈るように呟いた。




 「ルビア、今戻った。何があった?」


 チターニアに戻ってきた悠真は、セラとリリーは家に帰し、自分はパティに来ていた。


 「おかえりなさいませご主人様。お呼び立てして申し訳御座いません。実は先日貴族の方がお見えになられまして、ご主人様にお取次ぎをと申されたのですが、ご不在の旨をお伝えしたのですが、至急取り次ぎを依頼されまして、冒険者ギルドで言伝を依頼した次第でございます」

 「有難う。貴族の依頼なら無下にするわけにはいかんな。ちなみにどなたかわかるか?」

 「ユタ公爵様の御令嬢、カトレア・ユタ様で御座います」

 (公爵家か……コネを作るにはかなり有力だな)


 ここでまた日本での経験談が活きてくるのだが、悠真が起業したときは全くコネがなく、仕事もほとんど取れなかった時期がある。

 ところが、良く通っていたバーで知り合った、1人の青年経済人のコネで、色々な企業の社長を紹介してもらい、『その青年経済人の紹介なら』と、ほとんど他社で決まりかけていた仕事までも受注した経験があり、コネの重要性は身をもって経験している。


 「連絡手段はどうなってる? どこに伺えばいい?」

 「カトレア嬢はほぼ毎日パティにお越し頂いております。本日はまだお越し頂いておりませんので、そろそろお見えになるかと存じます」

 「了解。ちなみに何を召し上がられている? 好みを把握したい」

 「はい、シュークリームは毎日3個をお持ち帰りになられており、店内では先日開発されましたイチゴソースをかけたプリンをお召し上がられております。ただ、稀に甘めのスイートソースをお選びになられることも御座います」

 「なるほどな。手土産に甘目のソースを至急開発する必要があるな。他には何か気付いたことはあるか?」

 「はい。以前お話しされていたんですが、ベリーを摘みに行かれることがあるそうです。その時も摘みに行った帰りにお寄りになられたと思われます。微量ではありましたが、ベリー系と思われる果汁がお召し物に付着しておりました」

 「よし、ベリー系のソースだな。ちょっと市場に行ってくる」

 「かしこまりました」


 悠真は最善の手土産を用意すべく市場へと向かう。どんな場合でも立場が上の者に気に入られるのに、手土産を用意するのは同じだろう。それが最善の物であればより良い。

 道中で装飾が豪華な馬車とすれ違ったが、悠真は特に気にすることなく市場へと向かい、大量のベリー類を仕入れ、パティへと戻り、新しいソースの開発に勤しんだ。

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