第31話 ダンジョンボス

 全滅の危機に陥った日以降も、アドニス達はダンジョンに潜っており、順調に攻略を進め、現在は34階層にいた。


 「さっきのワーウルフ鬼ヤバかったんですけど」

 「思ってたより動きが早かったね」

 「あれが群れで出たらかなり厳しいぜ」


 以前の反省を踏まえ、周囲の警戒は怠っていない。

そのためか、魔物の発見が以前よりも素早く、正確になっていた。


 「何か前方にいるね」

 「2体かな」


 冒険者ギルドで仕入れた情報によれば、34階層はワーウルフとブルーマッシュルーム、他にはウルフが出現するみたいだ。

 身長に進むアドニス達4人だが、後方からも1体魔物が近づいていることにステラが気付いた。


 「ちょまち。後ろからも何か来てね? 囲まれた?」

 「何か来てるな。後ろはボルガとリッシ頼む。前の2体を俺とステラで対応する」

 「わかった」


 順調に育ってきているのか、連携も上手く取れるようになっただけでなく、アドニスの指示も的確に、そしてスムーズに出ていることから、もう悠真達のサポートが無くても大丈夫だろうと、悠真は考えている。


 「見えた! 後ろはウルフ1体。さっさと討伐して合流する」

 「わかった! 前方はブルーマッシュルーム2体。その奥にも何かいる気がする」


 状況を常に報告して全員で共有することで、この場の状況を全員が同じだけ把握することができる。

 これは仕事でも同じだった。それぞれの進捗を報告し合うことで、遅れている部分に対して、手が空きそうな人がカバーに入ることができ、スケジューリング通りに仕事を進めることができた。


 ステラが遠距離からブルーマッシュルームにエアカッターを放つ。怯んだところで、アドニスがブルーマッシュルームに近づき、止めを刺す。そんな連携でブルーマッシュルーム2体を討伐した頃、ボルガとリッシもウルフを討伐して戻ってきた。


 「さっきはこの奥に何かいる気がしたんだが、今はそんな気配がないな……」


 そう言いながらさらに奥へと進むと、誰かが戦っている音が聞こえてくる。


 「さっきの魔物が流れていったのかな」

 「そうかもしれない――」

 「うわぁっ」

 「アスタ!」

 「なんかヤバそうだ。行くぞ!」


 アドニスを先頭に進むと、ワーウルフが2人の冒険者と対峙しており、男性の方が剣を落として腕を押さえている。

 ワーウルフの背後から迫ったアドニス達は、図らずもワーウルフに奇襲を仕掛けることができた。


 「くらえっ!」


 ワーウルフの背後から袈裟切りにアドニスが斬りかかり、続いてステラがエアカッター、ボルガが槍で突く。


 「ガァァ!」


 手に持った棍棒を思いっきり振り回すが、アドニス達は既にワーウルフから距離を取っていたため当たらない。

 棍棒を振り切ったその隙に合わせて、アドニスが右薙ぎに斬りかかり、ボルガが再び槍で突いて、ワーウルフを討伐した。


 「大丈夫ですか?」

 「すまない、助かった」

 「有難う御座います」

 「僕が回復しますね。ヒール」


 リッシがヒールを唱えると、男のキズが回復し、とりあえず動けるようにはなったみたいだ。


 「有難う、ワーウルフ1体だったし、ちょっとダリアに格好良く見せようとしたら、逆にやられちゃったよ」

 「馬鹿! そんなことしなくてもアスタは格好良いんだから!」

 「ダリア……」

 「アスタ……」

 「はいストップ。そういうのはダンジョンを無事に出てからにしてくれ。決して羨ましいから止めたわけじゃないぞ……」


 悠真が2人の雰囲気に割って入り、アドニス達を呼んだ。


 「助けに入ったことは良かったと思う。しかしだ、一声かけてから助けないと、トラブルの基になる。次からは助けが必要か確認してから助けるように」

 「はい。でも明らかに助けが必要な場合には確認無しでも良いですか?」

 「そうだな。そのときは確認せずとも良いんじゃないか」

 「さっき止めたのは、本当に羨ましいからじゃないんですか?」

 「お、おう。羨ましいなんて思ってないぞ」

 「目が泳いでるニャ」

 「リリー、ご主人様もそんな気持ちになるときもあるんです。黙っていましょう」

 「すまないニャ」

 「だから羨ましく思ってないって……」


 そのまましばらく休憩を取り、2人の冒険者――パーティー名:レッドローズ――と話をしていると、体調が万全ではないため、このまま帰還するらしい。

 魔法陣までの護衛も断られた。


 レッドローズの2人と別れてしばらく進むと35階層への階段を発見した。


 「さて、情報通りだと次がダンジョンボスのフロアになる。エルダートレントとブルーマッシュルームが数体だ。このまま進むか? それとも戻るか?」

 「このまま行かせて下さい!」

 「うちもマジで行きたいっす!」

 「気合い入れて行くぜ!」

 「僕も頑張ります!」

 「わかった。アドニス、作戦は考えてあるか?」

 「大丈夫です。まずブルーマッシュルームですが、状態異常の胞子を使ってくるのでボルガとリッシで……」


 アドニスの作戦を聞いた後、セラとリリーには今まで以上に注意深く、そして自己判断でヘルプに入ってくれて構わないと伝え、悠真達は35階層へと進んだ。




 フォボスダンジョンと違い、35階層に下りてすぐに大きな扉があり、その横には転移の魔法陣まで設置されていた。

 しかしながらアドニス達は、魔法陣には目もくれず、扉の前に立ち、重々しい扉を協力して開けると、中には情報通りにエルダートレントと3体のブルーマッシュルームがいた。


 「いくぞ!」


 アドニスの掛け声とともに、ステラ、ボルガ、リッシは突撃した。


 ボルガはブルーマッシュルームに槍で先制攻撃を仕掛ける。


 「まずは1体だぜ!」


 素早く突きを繰り出すも、ボルガの突きは回避され、別のブルーマッシュルームが胞子を辺りに飛散させる。


 「くそっ、やられた。リッシ頼む」

 「キュア!」

 「お返しだぜ!」


 状態異常を回復すると同時にボルガが槍で叩き伏せた後、槍を突き刺し止めを刺す。


 「次のキノコ来いやぁ!」


 一方アドニスの方は、ステラと共にエルダートレントと対峙していた。


 「この葉っぱが邪魔!」

 「エアー!」


 トレントの常套手段である葉っぱで目隠しを、ステラの風魔法、エアーで吹き飛ばす。これもアドニスの作戦の一つだ。

 視界がクリアになったアドニスが、エルダートレントの幹を右薙ぎで斬りつけるが、アドニスの上部から枝が襲いかかる。


 「エアカッター!」

 「ステラ、ナイス!」


 エアカッターで枝を切り落とし、アドニスを援護するステラ。


 「アドニス! 右からブルーマッシュルーム来てるよ!」

 「エアカッター!」


 ボルガが逃したブルーマッシュルームをアドニスに近づけまいと、エアカッターで牽制すると、ブルーマッシュルームはステラにターゲットを変えて襲ってくる。


 「ステラすまん! ちょっとだけ耐えてくれ!」

 「ちょっ、作戦とちげぇんだけど。マジないわ。ボルガの馬鹿!」

 「ステラ! 葉っぱ!」

 「ちょまち! こっちブルーマッシュルームいるし! マジ無理。リッシ、あんた何とかして!」

 「僕も今ボルガとやってるよ!」


 戦線が崩れようとしているアドニス達だが、ボルガとリッシが2体目のブルーマッシュルームを討伐したところで流れが変わる。


 「ステラすまん! そのブルーマッシュルームこっちでもらう!」

 「助かるし。うちはアドニスの援護に集中するわ」


 ステラがアドニスを見ると、アドニスはほぼ1人でエルダートレントと対峙していたためか、想定以上にダメージを貰っているみたいだ。


 「リッシ、アドニスにヒールよろ!」

 「ヒール!」

 「助かった!」


 アドニスはエルダートレントの攻撃手段を減らすため、本体よりも先に枝を剪定していたが、それをステラに任せることにした。


 「ステラ、枝を剪定してくれ。残りは少ないから後は任せた!」

 「りょ!」


 悠真は、アドニス達が危なそうであれば手伝うつもりではいたが、危うい場面はありつつも、なんとかエルダートレントとブルーマッシュルームと対峙していたため、全く手を出していない。

 セラとリリーも、悠真の指示があるまでは待機しながらアドニス達を見ていたが、アドニス達は無事にエルダートレントとブルーマッシュルームを討伐した。


 「よっしゃぁ!」

 「超絶嬉しい!」

 「やったぜぇぇ!」

 「っしゃぁぁ!」


 4人が抱き合い、飛び跳ねながら喜んでいる姿を見て、悠真は4人の成長を感じながら、「今後はもう監督はいらないな」と少し寂しさを感じていた。

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