第30話 説教

 食事を終えて男子と女子に別れて部屋に戻った悠真達は、装備品の手入れなどを済ませた後、アドニス達がグリと遊び、悠真はその様子を見守るように眺めていた。


 「まさか従魔を飼うことになるとは思わなかったな……。というか今まであまり従魔を見かけなかったけど、維持費がかかるから従魔登録をしないのか?」


 テイミングスキル持ちの冒険者は、スキルランクが高い場合を除いて、基本的に従魔登録をしない。従魔登録して街に入れた場合、その従魔が起こした問題は全て主人の責任となり、維持費もかかる。

 スキルランクが低い場合、テイムできる魔物も弱く、命令を無視するケースも多い。その状態で街に入れると従魔が問題を起こす可能性がかなり高い。

 そのためスキルランクが低い冒険者は、基本的に現地でテイムして、帰還する前に開放するのが一般的であった。


 「そもそも俺ってテイミングスキル無かったよな……」


 ふと思い立って自分を鑑定してみると、いつの間にか家事EとテイミングEを取得している。


 斉藤悠真(18)

 ギルドカードA

  身体能力S

  魔力S

 スキル

  エディットver.2

  鑑定S

  戦闘の心得S

  魔法の心得S

  生活魔法

  気配察知D

  隠密D

  精神耐性D

  物理耐性S

  魔法耐性S

  家事E

  テイミングE


 「テイミングスキル取得してるな……。グリが懐いてきたあのときか?」


 家事Eは試行錯誤しながらカスタードクリームを作っていたとき、テイミングEはグリが孵化したときだと思われる。

 エディットがver2になって、1日1回だが代償無しで使えるようになっていることもあり、テイミングスキルをEからSに引き上げた。


 「エディットがver3になったら、単純に回数が増えるのか、それとも新しい効果があるのか、どっちだろう……。そろそろ寝ようかな」


 ――と悠真が思うと、急にグリが悠真のベッドに突っ込んできた。


 「おいおい、どうした?」

 「ピィー」

 「急にユーマさんに突っこんで行ったけど、ユーマさん何かしました?」

 「いや、特に何も。そろそろ寝ようかなと思っただけ……」

 (もしかしてテイミングスキルをSにしたから、声に出さなくても意思の疎通ができるようになった……?)

 「ピィー」

 (グリ、俺の肩に乗ってみて)


 グリが悠真の肩に乗ると同時に、誇らしげな感情が伝わってくる。


 (なるほどな。Sにした恩恵は他にもありそうだけど、それはグリがもうちょっと成長しないとわからないのかもな)


 そんなことを考えていると、アドニス達も寝る準備を始めていた。


 「そうですね。夜更かしして明日の調子が悪くなるのも嫌ですし、そろそろ寝ましょう。おやすみなさい」

 「おやすみ」




 翌日、ダンジョンへ向かっていると、他の冒険者が騒いでいることに気が付いた。


 「どうしたんですか? 何かありました?」

 「どのパーティーか知らんが、ダンジョンボスを討伐したらしいぞ」

 「お、それは凄いですね。ダンジョンボスってどんなのだったか聞いてます?」

 「エルダートレントだって言ってたな。とりまきにブルーマッシュルームが数体出たって聞いたな。両方とも状態異常にしてくるから、解毒剤を大量に持って行くか、キュアが使える治療魔法使える冒険者がいた方がいいぞ」

 「なるほど。ちなみに、ダンジョンボスってどれくらいで復活するんですか?」

 「1日くらいじゃねぇか。俺はそこまで行ったことがねぇからわからんよ」

 「そうですか。情報、有難う御座いました」


 「聞いていたな? 他のパーティーがダンジョンボスを討伐したみたいだ。お蔭でボスの情報が手に入ったから、ダンジョンボスに比較的安全に挑戦できるな」

 「そうですね。他のパーティーに先を越されましたけど、俺達の目標はダンジョンボスの討伐なので、役立つ情報に感謝ですね」

 「まぁなんつーかあれだね、次に討伐するのは、うちらだよね」


 他のパーティーがダンジョンボスを討伐したことにより、アドニス達に少し気合いが入った印象をうける。

 そしてそのまま昨日の9階層へと転移石で飛び、ダンジョンへと潜って行った。




 気が付けば既に19階層に悠真達はいた。その階層はレッサースコーピオンが群れで行動しており、悠真達は8匹の群れに遭遇していた。

 セラとリリーは上層階と同じく待機しており、悠真はアドニス達に指示を出してから待機する。


 「アドニス、焦るなよ。あと毒針に注意だ」

 「はい!」

 「ステラ、1体だけを群れから離すように風魔法で攪乱」

 「りょ」

 「ボルガはステラとリッシを守れ」

 「了解だぜ」

 「リッシ、適宜ヒールとキュアだ」

 「わかりました」


 悠真は下がり、セラとリリーと一緒にアドニス達の戦闘を見ている。


 「エアカッター!」

 「ステラナイス!」

 「おらぁ!」


 順調にレッサースコーピオンを討伐していると、ボルガが油断したのか毒針を受けてしまう。


 「痛ってぇ! 麻痺毒だ。左腕が動かねぇ」

 「キュア!」

 「ボルガ、油断するなよ!」

 「リッシ、助かった。アドニス、すまん」


 アドニスも1体のレッサースコーピオンを対峙しており、毒針を避けると同時に剣で切りかかり、しっぽの針の部分の切断に成功する。


 「よし、毒さえなければあとは固いだけ!」


 そう言って飛びかかったアドニスは、ジャンプした勢いとともにレッサースコーピオンの真上から剣を突き刺した。


 「ギー」

 「よし、次!」


 ステラもエアカッターを上手く使えるようになってきたのか、アドニス用に1体を隔離しつつも、自分も攻撃に転じており、順調に魔物の数を減らし、レッサースコーピオンの討伐を完了した。


 「お疲れ様。ステラは順調に風魔法の使い方が上手くなってきてるな。リッシも全体的に上手く見渡せてるな。さっきのキュアは良かったぞ。アドニスとボルガはもうちょっと頑張った方がいいな。特にボルガは毒針にもっと注意を払うこと」

 「はい」

 「しばらく休憩を取ってなかったし、とりあえず一旦休憩しようか。休憩中はセラとリリー、俺で魔物は対応するから」


 すると、グリから一緒に遊びたいという感情がヒシヒシと伝わり、目線でも可愛くお願いされた。


 「グリも一緒にな」

 「ピィー」


 アドニス達が魔物を討伐している間、ずっと暇だったのだろう。嬉しそうな感情が伝わってきた。

 休憩中は、グリが魔物の気配を感じた途端に火の玉を吐いたり、小さい身体のどこにそんな力があるのかわからないが、小さな足で魔物を潰したり、遊び感覚で19階層の魔物を率先して討伐していったため、悠真達は特にすることがなかった。


 「俺達ってあんな小さなグリにも勝てなそうだな……」

 「うちらも秒で強くならんと……」


 そう呟いたアドニス達は、休憩中に肩を落とす結果となった。




 しばらく休憩した後、悠真達はさらに歩を進め、今は21階層にいる。


 「この階層さりげヤバくね? ブルーマッシュルームいたし」

 「あれが胞子ばら撒くと、僕もキュアが大変になるよ」

 「胞子をばら撒きそうになったら、一旦離れるようにするぜ」


 奥へと進みながら、この階層の魔物に対する対策を話し合っているアドニス達だが、もう少し周囲に注意を払わなければいけない。どうもこの先にいる魔物に気付いていないようだ。


 「でも槍なら離れていても攻撃できるし、胞子さえ吸い込まな――うわっ!」

 「キャッ」

 「ちょっ!」


 角にいたブルーマッシュルーム1体と出会いがしらに衝突し、4人が胞子を吸いこんでしまったようだ。


 「ま……麻痺……毒……」

 「リッシ起きてくれ。キュア頼む! 視界がぼやける」

 「気持ち悪い……」


 治療魔法を使えるリッシが寝てしまったためキュアができず、さらに解毒剤を切らしていたため、4人は混乱に陥ってしまった。


 「吐きそう……」

 「ぐ……動け……」

 「くそっ、当たれ!」


 ブルーマッシュルーム1体に何もできない4人。このままでは4人が全滅の恐れも出てくるため、セラがブルーマッシュルームを討伐し、悠真が4人にキュアをかけた。


 「対策を練りながら進むのはいい。だが周囲の警戒を解いたら最悪全滅だぞ。今回は俺達がいたから良かったけど、いなかったらどうなっていたと思う?」


 4人を座らせて、周囲への警戒が疎かになる危険性を説く悠真。

 その指摘を真摯に受け止め、反省する4人。

 周囲を警戒している2人。

 あくびをして眠そうにする1匹。


 説教が終わる頃、時間もかなり経っていたため、その日はダンジョンを後にした。

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