第29話 従魔登録

 「ご、ご主人様、その肩に乗っているのはまさか、グリフォンですか!」

 「――ッ!」

 「何!」

 「ウソ!」

 「可愛いニャ」


 セラ達の下に戻ってきた悠真だが、その反応は驚く者、逃げようとする者、愛でようとする者など十人十色だった。


 「グリフォンだね。なんか懐かれた」

 「ピィー」


 苦笑いをしながらそう言う悠真の肩の上で、まるで挨拶をするかのように羽を広げたグリフォン。

 そのあどけない姿にセラ以外は心を奪われた。


 「ユーマさん、このグリフォンの名前は何ですか?」

 「まだ決めてないんだよね」

 「ピーピー鳴くから、ピーちゃんはどうですか?」

 「グリフォンだからグリがいいと思うぜ」

 「身体がフワフワなんで、フワリ!」

 「空を飛ぶからソラはどうニャ?」

 「小さいグリフォンだから、僕はプチがいいと思うな」


 思い思いの名前が出てきた中から、安直ではあるが覚えて貰い易いため、悠真はボルガの案を採用することにした。


 「ボルガのグリにしようか。これからよろしくなグリ」

 「ピィー」

 「ところでセラに聞きたいんだけど、ペットとかどういう扱いなんだ?」

 「テイミングスキルを持っている冒険者ですが、冒険者ギルドで従魔登録をしております。従魔登録していない場合、普通の魔物とみなされて街に入れませんし、討伐対象となります」

 「街へ入れないのか? それだとどうやって従魔登録すればいいんだ?」

 「速やかに冒険者ギルドへ行く条件付きではありますが、門の衛兵に言えば仮登録が可能です」

 「なるほどね。さて、今日はそろそろ出ようか。続きはまた明日かな」

 「それよりも、グリフォンは伝説の魔獣と言われておりまして、絵画以外で見たことある人は、恐らくいないかと……」

 (そんな魔獣を従魔にするご主人様神様はさすがですね)

 「へぇ。連れてると何か言われそうだな……」


 転移の魔法陣へと向かい、ダンジョンから脱出する悠真達。この時はまだことの重大さを理解していなかった。




 「逃げろ!」

 「いやー! 助けてー!」

 「もっと衛兵を呼べ! 早くしろ!」

 「囲め! 逃がすんじゃないぞ!」


 ダンジョンから脱出してきた悠真は周囲の人々から恐れられ、囲まれていた。正確には、悠真の肩に乗っているグリに怯えた、衛兵に囲まれていた。


 「ちょっと待って下さい。このグリフォンは自分の従魔です。大丈夫です。落ち着いて下さい」

 「従魔登録の首輪してねぇじゃないか! それより伝説の魔獣が従魔になるわけないだろ!」


 槍を構えた衛兵が、従魔登録されていないことを指摘する。


 「今から登録するんです。嘘じゃないです」

 「グリフォンが従魔になるなんて聞いたことねぇ! 捕まえろ!」


 衛兵が悠真に押し寄せてくると、アドニス達はうろたえているが、セラとリリー、グリが衛兵に対峙して悠真を守ろうとするが、悠真は冷静にセラ達に指示を出す。


 「セラ、リリー、グリ、大丈夫だ。落ち着いて。とりあえず一旦、俺の後ろに控えてくれ」

 「しかし……」

 「大丈夫だ。……ちょっとこれを見てくれ」


 悠真は自分のギルドカードを衛兵に提示すると、ひったくるように衛兵がそれを奪い取る。そのギルドカードを確認した衛兵は目を見開いて驚いていた。


 「Aランクの冒険者……」

 「Aランクの冒険者なら、グリフォンを従魔にすることもあり得るんじゃないか?」


 ――あり得ない。

 本来であればAランクだろうが、Sランクだろうが、グリフォンを従魔にすることなどありえない。

 しかしながらその衛兵は、Aランクの冒険者を今まで見たことが無かったこと、グリフォンが悠真に従っていること、悠真の堂々とした態度から、それもあり得るかもしれないと思ってしまった。


 「そ、そうかもしれんな」

 「そして俺はダンジョン攻略者だ」

 「そうだな……フォボスダンジョン攻略者と記載がある」

 「もし不服があるなら、冒険者ギルドに確認してくれてかまわない。エララの宿にしばらく滞在する予定だから、問題があったならそこに来てくれてかまわない。王都の冒険者ギルドのギルマス、ロエアスとも懇意にしている。確認してくれてかまわない」

 「わ、わかった。すまなかった。こっちで従魔の仮登録をしてくれ。」


 日本で代表取締役社長として粉骨砕身で働いていた頃、ピンチに陥ったときはそれなりにあった。そのときも堂々とした態度で乗り切っており、こちらに非が無いときには何を言われても冷静に、そして堂々と対処すれば案外なんとかなることを、悠真は知っていた。


 「ありがとう。それじゃ冒険者ギルドにこのまま行ってくるよ」

 「あっちでも混乱が起きないように先触れを出しておくよ」




 エララの村に入ると、仮登録の首輪をしているお蔭か先ほどまでの混乱は起きていない。しかしながら悠真の前には人垣が割れ、道が出来上がっていた。


 「グリフォンを従魔にするってよっぽどのことなんだな……」

 「ピィー」

 「ひぃっ!」


 誇らしげに鳴いたグリに、周りにいた人々が恐怖し、顔が引きつっていた。




 人垣が割れ、できた道を進んで冒険者ギルドに来た悠真は、受付待ちの列に並ぼうとすると1人の女性が近づき、話しかけてきた。


 「ユーマ様でしょうか」

 「ええ、そうです」

 「従魔登録の件でよろしかったでしょうか。こちらへお願いします」


 衛兵が先触れを出してくれていたお蔭で並ぶ必要はなく、余計な混乱を避けるためにギルドが優先的に登録させてくれるようだ。


 「従魔登録ですが、こちらの用紙にご記入をお願いします」


 渡された用紙には、従魔の名前、種別、テイミング場所などの記入欄があり、グリ、グリフォン、ディオネダンジョン9階層……と記入をしている悠真を見て、受付嬢が質問をした。


 「ディオネダンジョンの9階層ですか? あそこでグリフォンが出たという情報が上がっておりませんが」

 「えっと、自分は9階層で休憩しようとしたら壁をすり抜けてしまい……」


 そんな話をしていると、周りの冒険者がざわつき始めた。


 「ディオネダンジョンだとよ」

 「テイミングスキル持ってるし、ちょっと行ってくるわ」

 「お前には無理だろ」

 「壁をすり抜けたって幻影かなんかだったのか?」

 「うさんくさいな」


 そんな声も聞こえてきたが、とりあえず従魔登録をしてから、そそくさと悠真は宿に戻った。




 宿に戻った後、1階の食堂で7人+1匹は夕食を取っていた。


 「こんないいお肉を食べていいんですか?」

 「ああ、良い食事を取って、明日もダンジョン攻略頑張らないとな。それに、またこの食事を食べるためにダンジョンで頑張って、無事に帰ってこないとあかんぞ」

 「毎日こんな食事食べれるなら、俺死んでもいいぜ!」

 「馬鹿じゃない。死んだら食べれないでしょうが」

 「この至福の時のために、僕は今日一日頑張ったんですね」


 アドニス達はこんな感じで食事を堪能しており、一方でセラとリリーはビールを堪能している。


 「ビールは疲れた心を癒してくれますね、ご主人様」

 「やっぱり麦のコクがガツンとくるのがいいニャ」

 「ピィー」

 「グリは雑食なのか? 色々頼んでみたけど、全部食べてるな」

 「でもビールは飲まなかったですよ、ご主人様」

 「ビールを飲ますなよ」


 セラがグリにビールを飲まそうとしてたことに苦笑いする悠真だが、グリ用に用意してもらった水が減らずに、ミルクが減っていることに気が付いた。


 「水よりもミルクが好きみたいだな。明日ミルクを買いに行くか」

 「ピィー」


 嬉しそうに答えたグリは、食事を終えて悠真の肩の上に飛び上がり、毛繕いを始めた。

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