第40話 Glasnost -full of enemies-

1985年モスクワで中年売春婦を殺して

少し経ってのことだった


私は思い知らされることとなった

KGBはマズイと

捜査能力やスペック以上に

KGBはマズイと


今までの捜査は何処かしら甘かった

官僚主義や事無かれ主義が

腐った甘味となっていたのだが

それが滅び始めていた

滅ぼされてきていた


ペレストロイカ グラスノスチである


グラスノスチ それは1986年4月のチェルノブイリを機に

秘匿主義から情報公開や言論の自由への転換革命


原発事故が自由に報道されるようになったり

政府の悪政史が自由に報道されるようになったりした

その様を観るだけでは良い時代になってきたものと

単純にそう考えてしまったのだが


KGBがそのグラスノスチに乗った その末に


私の連続殺人事件まで自由に報道されるようになった

KGBや民警は一般に対し 広く情報を公開し

KGBや民警は一般から 広く情報を募った


事件に関するありとあらゆる情報は

殆ど全て衆目に晒されることとなった


テレビでは心理学の専門家を含め出演者が

事件についての考察を自由に述べている


マスコミや一般人が犯人逮捕を目指し

あらゆる手を伸ばしている


これは非常にマズイのではないか?

私は強い危機感を覚えた 嗚呼


誰もが私を見ている気がする 誰もが私を見ている気がする

誰もが私を見ている気がする 誰もが私を見ている気がする


嗚呼 私の人生はこれで終わってしまうのか

嗚呼 私の人生はここまでだったのか

レーナを殺した時感じた恐怖

それは肩透かしであったが


今度は本物だ 誰もが確実に殺人犯(ワタシ)を見ている

誰もが皆 殺人犯(ワタシ)の敵となった


気付けば町の周りにフェイクが溢れている

気付けば私の周りに罠が溢れている


私がよく声かけしていたバス停では

明らかに囮な変装捜査員がいたり

私がよく殺していた娼婦やホームレスの

扮装した囮な変装捜査員がいたりした


殺人犯捜索のボランティアに出ると

事件について熱心に討論が行われた


誰もが殺人犯(ワタシ)のことを知っている

誰もが殺人犯(ワタシ)のことを探している


嗚呼 グラスノスチ そのせいで

この国は殺人犯(ワタシ)にとって生きにくい場所になった


気が付くと今はもう1987年

私は2年もの間 誰も殺せずにいた


では 人殺しから足を洗おうか

普通はそう思うのだろうが


私はシリアルキラー それは変わらない

ずっと変わらない 変えられない

永遠に 死ぬるその日まで


その本性のせいで こうして手配されているのに

今でも赤い狂気が私を駆り立てる

今でも赤い狂気が私を突き動かす


女を見かけるといつでも

どう犯して どう殺して どう食らうか想像してしまう

子供を見かけるといつでも

どう犯して どう殺して どう食らうか想像してしまう

どんな人を見かけたとしても

どう犯して どう殺して どう食らうか想像してしまい


その想像が止められない

体の震えが止まらない 嗚呼


血肉熱死 血肉熱死 血肉熱死

肉肉赤赤 肉肉赤赤 赤赤赤赤

死死死死死死死死


殺したい 殺したい 殺したい 殺したい 殺したい 殺したい

殺したい 殺したい 殺したい 殺したい 殺したい 殺したい

殺したい 殺したい 殺したい 殺したい 殺したい 殺したい

殺したい 殺したい 殺したい 殺したい 殺したい 殺したい


嗚呼 脳味噌が殺意の紅で埋め尽くされて逝く


麻薬のように 性質の悪い酒のように

赤くて黒い罪の味への飢えが

私を何度でも狂わせる


私は既に思い知らされている

グラスノスチはマズイ

少数の目が多数の目になり

グラスノスチはマズイ


そう 頭では何もかも理解はしていたのに

飢えが止まらず 狂気が止まらず


誰を見かけたとしても

どう犯して どう殺して どう食らうか想像してしまい


その想像が止められない

体の震えが止まらない


嗚呼 人を殺したい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る