第41話 At a far-off place

住んでいる町から 見ず知らずの町へ

見慣れた景色から まだ見ぬ景色へ

風に吹かれながら 揺られながら


私は私の知らない町へと向かった

私は私を知らない町へと向かった


トルカチの職務で 国内のあちらこちらへ

あまり帰宅できず 国内のあちらこちらへ


知らない景色を静かに眺めながら私は

無力感を感じ続けていた

最近ずっと感じ続けていた


今日は手軽に仕事先の町で1人

明日はちょっと足を延ばして1人

明後日は仕事先の別の町でまた1人


血肉熱死 血肉熱死 血肉熱死

肉肉赤赤 肉肉赤赤 赤赤赤赤

死死死死死死死死


そんな宴は今はもう昔の話


グラスノスチが広がり続けることで

私が自由に動ける範囲は確実に狭まっていた

私が自由に殺れる場所は確実に狭まっていた


ロストフやモスクワから遠く遠く離れた小さな町

トルカチで訪れた町より遠く遠く離れた小さな町

グラスノスチを未だ知らぬ遠く遠く離れた小さな町

そんな場所でのみ私は皇帝になれる


売春婦 淑女 主婦 少女 ホームレス OL 看護婦

皇帝様が頂く女には色々な種類がいる

大人しい子 元気な子 暗い子 明るい子 男児 女児

皇帝様が頂く子供にも色々な種類がいる

屈強な男 虚弱な男 兵士 パン屋 ゲイ ノン気 バイ

皇帝様が頂く男にだって色々な種類がいる


殺しの対象 ターゲットを少し変えるだけでも

殺人はまた別の悦びを私に与えてくれる


頸動脈 静脈 手首 胸 目玉 口 何処から始めるか

強く斬るか 弱く斬るか 真っ直ぐ斬るか 捩じって斬るか

犯して殺すか 殺して犯すか あっさり殺すか 嬲って殺すか


そうやってこだわっていたことも 今はもう遠い昔の話

反乱軍が各地で勃発している皇帝様は

今では選り好みなど出来よう筈もなく

殺るだけで精一杯


誰もが殺人皇帝(ワタシ)のことを知っている

誰もが殺人皇帝(ワタシ)のことを探している


その中で人の目を欺き 殺すのは

非常に骨が折れ 難しいことだったので


私は1988年から1990年夏にかけ

少年7人と女性2人しか殺せなかった


もっと犯したい もっと殺したい もっと食らいたい

私の中の赤い狂気は訴え続けているのに

もっと犯したい もっと殺したい もっと食らいたい

私の中の赤い狂気は凶悪に暴れているのに


時代と社会の変化が

私に自由を許さない

赤い狂気を許さない


テレビでは共産党幹部の無駄に豪華な暮らしを

賄賂に染まった悪政だらけの歴史を

今では痛烈に批判している

嗚呼 時代は変わっていた


ロストフの街を見渡せば 政府への不満が溢れ

民は自由に意見を言えるようになっていた

その末に国は終わろうとしている

嗚呼 時代は変わっていた

それなのに


私はシリアルキラー それは変わらない

ずっと変わらない 変えられない


この遠く遠く離れた小さな町で

時代に置き去りにされたまま

壊れ逝く国の残像と同じように

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