第13話 At Nizhny Tagil -A few years when are full of men-

ニジニ・タギルでの日々を思い出すと

酷かったあかぎれと 男達の笑顔を思い出す


タチアーナとの恋が無残に終わって 少しして

私の所へも兵役の義務のお報せが来た

赴任先はニジニ・タギル


生まれ育った町から 見ず知らずの町へ

見慣れた景色から まだ見ぬ景色へ

風に吹かれながら 揺られながら


私は私の知らない町へと向かった

私は私を知らない町へと向かった


知らない景色を静かに眺めながら私は

あの恋を忘れるのにこの機会は丁度いい

それくらいに思っていたのだが それでも


ニジニ・タギルの町に初めて着いた時

この町に対する知識のなさに

知る者のいない心細さに

途方に暮れてしまったものだ


何もできないままなのではないか?

全く受け入れられないのではないか?

不安ばかりが先立ったので


おかしいくらいに緊張した初顔合わせ

初訓練や初任務を今でも覚えている

カチカチでロクなことができなかったものだ


嗚呼 郷里に帰りたい

最初は頻繁に思ったものだが

そのような願いは日が経つにつれ

思う頻度が減っていった


少しずつ私は任務に 人々に この町に慣れるようになり

次第にニジニ・タギルでの日々に楽しみを

喜びを見い出すようになっていたのだ


工業専門学校で学んで得た知識が役に立ち

ニジニ・タギルで共にいる人々が笑顔になる

良かったよ 有難うと 感謝してくれる


今まで身に付けた知識・技術が役に立ち

ニジニ・タギルで共にいる人々が笑顔になる

良かったよ 有難うと 感謝してくれる


此処には私を馬鹿にしたり 気味悪がったりする人はいなかった

此処には私を罵ったり 辟易して避ける人もいなかった


嗚呼 いつの間にか 私のニジニ・タギルでの日々は喜びに満ちていた


町の寒さであかぎれが酷かったが

そんなの気にならない程に喜ばしいものだった


私の周りにこんなに笑顔が集まるなんて

まるで夢の中の出来事のようだった


数年の月日が経って兵役が終わり そんな私の夢も終わった

ニジニ・タギルの町に別れを告げる時

この別れが今までの何よりも惜しく


そのことが 此処での日々が

非常に幸福なものであったと実感させたのだが

幸福だったからこそ


涙を流さず 笑顔でさようならしよう

これは役務を無事終えた 胸を張っての帰還なのだから

大きな成長を家族に見せられる 幸福な帰還なのだから


この幸福な思い出を胸に

戻っても頑張ろうと心に誓い

新しい仕事で成功したら

またこの町を訪れよう


遠く消えゆくニジニ・タギルの景色を見送りながら

心の中で勝手に決めた


近い未来も遠い未来も含め もう二度と

私はこの町に戻れることはないと知らぬままに

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