第14話 Calm Life

兵役が終わり 故郷に戻った私は新しい仕事の為

ロディオノホ・ネスタビィエフスキという町で独り暮らしを始めた


故郷の実家で仕事をしようとしなかったのは

故郷には悪い思い出ばかりがあることと

田舎の村なので仕事自体が少ないこと

そしてニジニ・タギルでの成功体験からだ


私の知らない町ならば上手くやれるのではないか

私を知らない町ならば上手くやれるのではないか

そんな気がしたのだ


生まれ育った町から また見ず知らずの町へ

見慣れた景色から まだ見ぬ景色へ

風に吹かれながら 揺られながら


私は私の知らない町へと向かった

私は私を知らない町へと向かった

今度は少しワクワクしながら


ロディオノホ・ネスタビィエフスキで私は電話工となった

給料は大して高くはないけれども

経験を活かせる良い仕事だった


仕事中自分の股間をいじくりまわす悪癖を見られ

その同僚に馬鹿にされる失敗は少しだけあったが

それでも仕事自体は概ね上手くやれていた


生活はすぐに安定するようになり

故郷の実家より若干良い住まいを構え

私は家族を迎えることができた


ロディオノホ・ネスタビィエフスキでも私は

非常に安定した 穏やかな暮らしができていた


寧ろ家族を迎えることができた分

ニジニ・タギルの頃より より良くすることができた


私は幸福だった

私はとても幸福だった

けれども


それは表層上だけのこと

目に見える部分だけのことと分かっていた

私の内部には酷いコンプレックスがまだあり

今ある現実から目を背け続けていた


私ハ去勢サレタカラ 異性トハ付キ合エナイ

私ハ去勢サレタカラ 異性トハ付キ合エナイ

永遠ニズット 死ヌルソノ日マデ


私は既に現実の女性に対して

恋したり 向き合うことすらできなくなっていた


ターニャやタチアーナでの失敗がある上

どうせ恋仲になって ベッドを共にしても

股間のコレは役立たずだからだ


もう女性に馬鹿にされたり 罵られたり

辟易されたり 気味悪がられたりするのには

ほとほと嫌気がさしていたので


私は不毛な妄想でオナニーするだけとなった

仕事の他にはオナニー オナニー

楽しみは全てオナニー オナニー


か弱い女性が私に組み敷かれ

次第に私の支配下に堕ちてゆく

そんな妄想をしながらオナニー


ソ連の若きパルチザンが といった妄想物語と

同レベルの妄想オナニーだけが

私の日々の楽しみとなっていた

生き甲斐となっていた


故に現実の女性なんかどうでも良くなっていた

私の股間がどうだろうとどうでも良くなっていた


心は歪んではいた

性癖も歪んではいた

それでも


ロディオノホ・ネスタビィエフスキで私は

非常に安定した 穏やかな暮らしができていた


それが例え表向きだけの

張りぼてだとしても

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