第12話 Mortification Ⅴ -The Lover-

もう手に入ることはないだろう

そう思い諦めていたものが ある日ある時

ひょんなきっかけで手に入ってしまうことがある


私に恋人ができた


名はタチアーナ

No.1にもパワーエリートにもなれず

クズなままの私にはもったいない程

穏やかで優しい素晴らしい人だった


暗澹たる私の人生に彼女の存在が

一筋の光をくれたようだったので

私もそんな彼女の為に力を尽くし

ベストな恋人であれるよう励んだが


いざベッドでその時を迎えても

私の股間は イツモツは小さいまま 不能のままだった


いくら熱く想えども いくら狂えども

冷たい現実からは逃れられない


私ハ去勢サレタカラ 異性トハ突キ合エナイ

私ハ去勢サレタカラ 異性トハ突キ合エナイ


何をしようとしても 全てが空回り

何も為せぬまま砕けて散って そして終わる


嗚呼 タチアーナにも罵られる

恋人としてどころか 男としても 人としても何もかも全て

失格したクズ野郎だという烙印をまた押されてしまう

私はそう覚悟したのだが


タチアーナは私を罵らなかった

タチアーナは私を人間失格と嗤わなかった

それどころか


できないのならばしなければいい

恋人の繋がりはそれだけじゃないでしょう?

彼女はそう言って微笑んでくれたのだ


私は彼女の中に真の女神を見た気がした

彼女のその言葉は私にとって何よりの喜びであった

でも私は彼女の中に真の女神を見たが故に

彼女のその言葉は私にとって何よりの重圧でもあった


できないのならばしなければいい

そうは言うものの できた方が良いに決まっている

同じ条件下の男ならば イチモツ不能な男より

普通の男に恋人を変えるのが道理ではないか


そしてこの私は何よりも優れた人間ではなく

No.1にもパワーエリートにもなれなかった

ただのクズである 価値はない


故に彼女の優しい言葉はそのまま

私にとっては別離までの猶予となっていた


今はできなくても構わないが

遠くない未来にはできるようになっていなさいね

それができないままと言うのならば

貴方にもう用はないわ お別れね


彼女が心中でそう思ってる気がしてならなかったので

私は狂ってしまう程に必死になっていた

必死にこの状況をどうにかしようとしていた


ありとあらゆる精力剤を飲んでみたり

ありとあらゆる民間療法を試しもした


試して ダメで 試して ダメで

試して ダメで 試して ダメで

それを何度も 何度も 何度も繰り返していたら


いつの間にかタチアーナとの距離が開いていて

いつの間にかタチアーナはいなくなっていた


ふっと冷たい風が吹き その凍える寒さで

私は自分の周囲に誰もいなくなっていたと気付いた


私はまた独りとなった

嗚呼 やっぱり私はダメだった


私ハ去勢サレタカラ 異性トハ付キ合エナイ

私ハ去勢サレタカラ 異性トハ付キ合エナイ

永遠ニズット 死ヌルソノ日マデ


普通に恋することも 普通に幸福になることも叶わず

このままきっと私の人生はクズのまま終わる


ふと私は前を見据える

先に見えていた光はとうに失われていた

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