第52話2-13-4. インターハイ全国大会④

―――昨日の予選に続いて、今日は全国大会本戦の・・・初戦だ―――。


ああ、もう始まるようだ、

昨日の予選と比べるっとやっぱり観客は多い、声援も朝から多い。

この声援というのは僕は苦手だ、静かに戦いたいのだ。

まあ今日の本戦で自分が戦う必要はないだろうが。


一回戦開始。我々の対戦チームは正徳学園高校の“アルカナム”だったかな。

ダークアリス対えっと坊主頭の誰か。TMPA25500くらい金属性の巨人族かな。よく鍛えられている・・・アリスができる程度のことはすべて対策できるだろう。相手チームは魔装鎧まで全員同じ、肩当とか膝とか金属部分はブラウンで残りは黄色系だ・・・あ、しかも男子校か。とにかくまずは・・・お台場でいいかな、予算はどうなるのかな。


視界に白いものが映る・・・ダークアリスは白い長ランのような形の魔装鎧を纏っている、鎧だけは僕が構築したのだ・・・最高級品だ。

・・・しかしアリスって戦闘好きなのかな・・・えらい気迫だな、背中から見ると周囲が歪んで見える・・。

でも体術では絶対勝てない。


初戦はもう始まっている。白い魔装を翻してアリスは素人にしてはよく動く。

ただ直線的すぎるのだ・・・フェイントもないし。


対する相手の坊主頭は曲線で動く・・・。


5発・・・6発・・・、いいの貰ってるなアリス・・。

ふう・・・アリスはボッコボコだ・・・まあ仕方ない・・・。


10発・・・13発・・・まあ素人だし・・・。


・・・ダークアリスのキックはカウンターで1発入ったが・・・打撃の数だけならもう坊主頭に17発くらい貰っている。1発食らうたびにいい音が響く。超不良のダークアリスのクイックネスは悪くない、ギリギリで急所は避けており連続技をくらってないからまだアリスは立っているが・・・。まあ仕方ない・。


でもまあ時間の問題だ・・・お台場に集中できないな、全く。


そういうマニュアルなのだろうが坊主頭は途中からアリスの左足に的を絞って攻撃している軸足を潰す気だ・・・。そこまでしなくてもだが・・・素人には厳しい攻撃だが。


仕方ない・・まあ、お台場の次は・・・だ・・・いや、アリス・・・それではただの的だ。


左足をかばえばそれ以外を攻撃されている。坊主の攻撃は面白みのないコンビネーションだが、アリスに対処は難しいだろう。しかし向こうのチーム・・一発入っただけで・・一糸乱れず全員そろってヤッター的なリアクションをしてるな・・・正直、気持ち悪い・・・いかんいかん観光地を遠隔視で調べないと・・・。


・・・アリスの魔装鎧は数か所がかなり裂けてきている、しばらく前からアリスは肩で息している。ダメージは多い、打開策はない。


もう限界だな・・・ボクシングならタオルを投げ込むところだ、棄権するべきだ。


何度も何度も叫んで特攻していくがすべてカウンターを入れられている・・・。まあ仕方ないのだが・・・。叫ぶのも良くないと教えたんだけどな・・・。


あれ?さっきからまただな。


ん?やっぱり打撃をわざとずらしてるな・・・。坊主頭?なんだ?

そうか・・・恐らく少し坊主頭は余裕が出てきたのだろう。ダークアリスは格下だと踏んだわけだ。・・・わざとゆっくり倒すつもりか・・・わざと急所を外している・・・無意味だけどな。


戦闘時間は5分だ、相手の坊主は試合を長引かせて5分きっちり使って倒すつもり・・・だな。獲物を弄ぶように・・・か。もしくはギブアップさせる気か。アリスの今の気迫から言ってギブアップするとは思えないが・・・?・・・いやこのダメージ・・・ギブアップしたほうがいいのだが。


しかし相手の坊主頭・・・TMPAはそれほど離れていないんだ・・・あんまり余裕でやっていると・・・。


ドゴッ!!


体を入れ替えた瞬間、ダークアリスのオーバーヘッド気味のキックが坊主の脳天に炸裂した。無理な体制だし浅いがやっと2発目がヒットだ。

遊んでいたはずの坊主の顔つきが変わったのが見える。イラっとしたわけだ。


だがアリスは無理な体制のキックでグラついている・・・坊主はアリスの左手首を捻りながら固定し左腕を伸ばさせて自分の右脇に挟み肘関節を決めている。

・・・アリスの肘関節・・・外す気だ・・・ゆっくり倒すんじゃなかったのか・・また路線変更か・・・なんかこの坊主・・・。


グッ!

ほとんど音はしていないがアリスの肘関節・・・外れたな・・・。ここまでか・・・。

ムカついて強引に関節決めに来るようでは話にならない流れのつくり方だが・・・どちらにしろ素人のアリスは対処できないと言ったところか。

もう負けている・・・アフロが試合を止めるはずだ。


ん??


あれ?ダークアリスさん?試合続行するのか?アフロも止めないのか?


おおお?


関節は外れているし激痛だろうけど・・・。


なにする気だ・・・アリスは魔装鎧の白い長衣の端を持って、右手で相手の身体に巻いている。

身長は178㎝あるアリスの方がかなりタッパは高いけど。強引だ・・。


お?無理やり自分の肘関節直したな・・・かなり痛ったいはずだが。


おお!まじか!


長衣を相手の体幹から足に巻き付けて強引に固定して・・・右膝のキックを腹部に入れている!知ってか知らずか右わき腹の肝臓狙いで右膝を叩き込んでいる。相手との間に距離があまりにないためそこまでダメージは効いていないが・・・。


ドココココココ・・・!


相手が暴れてもお構いなしだ・・・!マジか・・・よくとっさに思いついたな。巻き付けている長衣を右手で力いっぱい振り絞り、相手と自分の間に強引に左膝を入れてスペースを開けた・・・キックが入るぞ・・・。これ・・・。


ドッゴ!

ドッゴ!

「ぐアっ」

ドッゴ!

「ぐぅ・」


1撃入れるたびに相手の声が響いている・・・そういえば肘関節外されてもアリスは声一つ上げていないな・・・。痛みを抑える技なんて教えてないが・・・気合か。


十分な体制で数発キックを相手にぶち込んで・・・。まさしくノックアウトだ。


初戦・Z班先鋒・・・血まみれの勝利だ。


オオオオオ―――!!


大歓声だ、そりゃそうだ・・・、大逆転だ・。

・・・勝ったか・・・まさしく能力と経験を考えれば激戦だ・・・難敵だ。


格上によく勝ったな・アリス。


「はぁぁ・・・はぁ・・・・せ・・せんぱ・・」

おぼろげな表情のアリスはゆっくり倒れたが、僕とタイガーで支えて。星崎さんがもう回復魔法を詠唱している・・・仕方ないので僕も覚醒抗術で痛みを抑えつつ左肘の治療をする。


闘技場のすぐ脇で数秒で彼女の目は覚めた。

「ありがと・・・痛くないよ・・じんめセンパイ・・・星崎センパイも・・・悪いね・・・手こずったわ」ダークアリスの長い手足は全く動かない・・・疲れて動けないのだ。疲労困憊というわけだ。白い魔装鎧もボロボロだが・・・。


その後アリスは戦いの場にどうしてもいたがっだため医務室には行かずストレッチャーを低い状態で借りて治療している。

肘関節は通常の回復魔法では回復が遅い、タイガーと僕とで抗術で治療を継続する。

「大丈夫よ。黒川さん。すぐ回復してあげますからね」

「あんな戦い方は教えてないよ・黒川さん」話しかけてもアリスは天井を見て表情を変えることは無い。

「・・せんぱい・・あたし。中途半端なケンカはしないんだ。やるからには・・・勝つ!とくになめてる奴にはね」

(たしかに勝因は相手が舐め過ぎたからだが・・・それで気合入ったのだろうか。それにしても・・・ああ疲れる観戦だった、こんな戦いは見るのも・・・もうゴメンだ。)

「黒川さん・・・一つ技を覚えてもらう。僕の霊眼からイメージというかビジョンを送るので覚えてください」

霊眼に集中する・・・僕の左眼は紫に輝いているだろう・・・タイガーセンセがじっと僕の顔を見ている。


右足のキックしか攻撃の起点がないためキックでできる技を覚えてもらう・・・念話の応用だが情報量は多い。


「すごい・すごい。入ってくる、すごい技の知識みたいのが。あたしに入ってきてる」


肘関節の治療と魔装鎧の回復はそこそこ問題ない範囲で終わったのであと全身は星崎さんにまかせよう。

「うん、大丈夫。まかせてもけキュン。もけキュンは試合に集中して、ね」


(全国大会で戦うレベルに達していないんだ、アリスもみんなも・・大怪我させるために竜の召喚士にしたわけじゃない、とりあえず見るに見かねて衝撃波をまとう技は2通り教えたけど。本来はこんな方法ではなくきちんと時間をかけるべきなのだ)


―――当然、次鋒戦は始まっている。戦闘中に相手との距離感がまだしっかり掴めていないど素人のオールバッカ―はやっぱり苦戦している。水が流れるようにスムーズに攻撃し防御し、回避するのはまだ無理だ、次に何しようかと考えているうちは相手にいいようにされるだろう。


闘技場に視線を意識を戻すと・・・もうオールバッカ―はボロボロだ。あいての曲線の動きについていけないのだ。オールバッカ―の“ギド”による攻撃は避けられ受け流されカウンターをくらっている。先鋒の敗戦が痛かったのだろう。全く今回は遊ぶ気無しだ。


うーんボッコボコだ。回避も防御も攻撃もバラバラでちぐはぐだからなあ。いや3ヵ月前を思えば別人だよ、オールバッカ―は。魔法を唱えて魔装武器を振るっているだけで奇跡なんだが、この落ちこぼれは。


ああ、僕は何でアリスといい、オールバッカ―といいこんなにイライラするんだろうか。負けるのは自明の理なのに。


うーん、オールバッカ―はまた相手がカウンター待っているところに魔法攻撃か・・。


“氷柱群現”

アイスボルトクラスターという結構強力な魔術なのだが・・・空中から60×120㎝程の氷柱が数本降ってくる術だ・・・ランク3魔術撃ってるんだから素人にしては凄いんだけどなあ。

相手の坊主は待ってましたと言わんばかりに氷柱を避けつつ距離を詰めてくる。詠唱後の硬直でオールバッカ―は動けない・・・。坊主はオールバッカ―に密着し必殺の発勁を叩き込むつもりだ・・・坊主の選択肢も頭悪いけど・・・これで勝負ありかな・・・。


あれ?

ゴスッ!!!

鈍い音が響き、自分の魔法攻撃アイスボルトの直撃をオールバッカ―が脳天に受けている・・・。当然相手の坊主も無防備にアイスボルトをくらっている。

ええええ?そんな自爆技ないだろ?

いや魔装鎧の強度はオールバッカ―が上で、あいては巨人族の召喚士だから耐性もオールバッカ―が上、しかも氷属性攻撃はさらに耐性あり・・・。考えたなオールバッカ―、あり得ないくらいバカな選択肢だけど。ほとんど物理攻撃だからな・・・。


闘技場では2人とも頭を押さえて転げまわっている。さすがにオールバッカ―が立つのが早いか・・?なんだか嫌な予感がするぞ。


オールバッカ―が坊主に掴みかかっている・・・いや、いまこそ魔法攻撃じゃないのか??


掴み技って教えてないけど・・・?氷属性の魔力の高まり・・・。


いや・まさか・・・。


ガッッキ――――ン!


・・・闘技場の中央で2人は氷の置物になった・・・。


次鋒戦―――引き分けです。

(なんでやねん。有利状況を捨てるなんて・・・負けかけてたから引き分けただけ凄いのか・・・それどころか勝てそうだったじゃないか?バカなの?いやあバカなんだけど・・・なんだろう・この気持ちは)


抗術を教えていないので掴みかかって氷属性魔法攻撃をフルパワーで行えば相手ともども自分ごと凍ってしまう・・・中和できないのだ。


「とにかく溶かさないと」

「お願いミイロミューン」


“拡散”

“浄化一現”


こんなにできる人だっけ・・・星崎さんの魔法でオールバッカ―と坊主の氷が溶けていく・・・。

「星崎さん、状態回復魔法覚えたの?」あれ?使えている・・・。

「昨日徹夜で練習しました、みんなのため。みんなに報いるために」うーん、普通のかわいい女子みたいな笑顔だ・・・それにしても一晩で習得か。


もう一台ストレッチャーを借りることになった。向こうの坊主たちは医療班を引き連れており控室で治療するようだ。


次の試合が始まっているが、僕も治療を手伝う。氷結ダメージの回復はやや時間がかかるのだ。


中堅ダブルス戦は暴れ狂う赤ノ巨人から2人の坊主が逃げ惑う構図だった。体術を使い逃げながら遠隔攻撃してくるためかなり被弾したが1人ずつ一撃ずつで仕留めた。


中堅戦―――Z班勝利。


中堅戦が終わるころやっとオールバッカ―が目を覚まし身体を起こした。

「まだだめよ」

「もけちゃん、黒川有栖は大丈夫か?あと試合は?おれっちの試合はどうなった?」

「黒川さんはだいぶ回復したよ。オールバッカ―の試合は大逆転で引き分けだった」

「・・・もうしばらく動かないで」

「すまねえな。星崎ちゃん。また勝てなかったか」

なんで本気でくやしそうなんだろう。


「なに泣いてんだ。オールバッカ―。格上に引き分けだよ。悪くないさ。泣く必要は」

「おれっちみんなに顔向けできねえな。このままじゃよぉおお」

アフロはこっちを見ずに闘技場に上がっていく。何を考えているのか横顔からはよくわからなかった。

なんなんだみんな・・・何がしたい?


副将戦・・・アフロは5分間フルに戦ったがダメージが相手の坊主よりは多く優勢負けした。

Z班は2勝1敗1分けというわけだ。

しかし、アフロは魔力を絞っていた、余力を残している。つまり次も戦うつもりなのだろうか?観光は?いかないの?


それで僕はどうするんだ?中堅戦ダブルス勝っていてアドバンテージあるからもう僕は棄権しても一応Z班の勝ちなんだけど。アフロは優勢負け・・・、リーグ戦だから得失点差まで考えてる?・・・まさかね・・。

え?・・・得失点差まで考えて戦うってことは明日の全国大会決勝リーグにまさか出場するつもり?正気?

まさかぁ。まさかね。・・・でる理由が無い・・・僕には無い。Z班のみんなにも無いと思うんだけど。


大将戦開始だ、僕は闘技場へ上がる―――。

(よくわかんないどうしよ・・・本気かな?なんかみんな後ろでは僕を応援してるし・・・)

ん?

この闘技場の床は結構弾力がある素材でできているがどこそこ割れていて。拭き取れなかった凝血塊がすこしこびりついている。場所的にはダークアリスの血だろうか・・・打撃を受け続けていたからな。

アリスはなんであんな・・・戦いをするんだ。親のカタキでもあるまいし。

まあでも喫茶店では毎回おごってくれるもんなアリス。どうしようもない乱暴な不良だけど、ものすごくガサツだし・・・でも何故か僕の言うことだけは守るけど。


ここもか・・・ここも・・・アリス・・・結構血が出てるな・・・あの坊主・・・勝つのにわざわざ相手の怪我を増やす必要はない・・・それも女性の顔をわざと・・・綺麗な顔してるのに・・。


全員坊主頭、魔法も武器も一緒。個性を潰され抑制され自分より弱いものを嬲ることで発散する・・・か。

それか相手に自分の恐怖を植え付けるため?


なんのためだろうか、万蛇木たちの卑下た笑いを思い出す・・・似たようなものかな・・・万蛇木たちと・・・こいつら坊主どもは・・・。


あれをやってみようか。あんまり構えるのは好きじゃないけど。

あれ?なんでこんな技を雑魚に・・・する気になって・・・僕は。

心と裏腹に身体は速やかに動く・・・この坊主に使ってみよう。

奥村流槍術無手の型・・・。


・・・奥義。


“瞬殺神威”


周囲は僕の魔力で一瞬だけ暗闇になり・・・相手の心眼感知の隙間から超高速で打撃を叩き込む。

暗転が解けた時勝負は着いている。僕は既に開始線にもどっている・・・コンマ数秒のあいだに15発・・・誰にも知覚できない打撃系奥義・・・。


ッッッッッッブッシャ!!!


相手の坊主の全身の法衣のような魔装鎧が魔晶石ごとはじけ飛びその場で浮きながら気絶して落ちた。まあ急所はわざと外してあげた。少々血がでているが仕方ないだろう。

ま・・・相手の坊主たちは少なくとも静かになった。


寝てればいいのに・・・アリスが身体を起こしている。オールバッカ―もだ。

「す!すっげ!先輩・・・早すぎる強すぎる。ナニアレ」

「・・・す、すげえしかでてこねえ。暗くなった瞬間、ものすげえ・・・もけちゃん」

もちろん無傷で闘技場を降りる。


(なにをムキになっているんだ僕は・・・ムキに?)


大将戦勝利して3勝1敗1分けだ。勝ってしまったか。

アフロは?・・・目を閉じている・・・何か考えている・・・か。


キャー――じんめサマ―――!!キャー!!

ん?観客席からだ・・6高の女子生徒か・・・。なんだ?呪詛か?通常の呪詛なんて効かないからな。

キャー!こっち向いた!じんめサマ―――!!


全く覗いていなかったのだが同じグループのチーム“孝宗訓佳”とチーム“残影”は“孝宗訓佳”の勝利だったようだ。


何を考えているんだろうアフロは。

まさかこの後“孝宗訓佳”とか“残影”とも対戦するんだろうか。

・・・ふむ。ダークアリスはもう歩けるだろうが今日はもう試合は辞めた方がいい。それにしてもオールバッカ―も結局・・・本気で戦っている?・・・まっさかねえ。

しかしなんだろう・・・自分の心の動きは・・・感動している?・・・それこそまさかね。

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ドラゴンディセンダント ドクターわたる @Drwataru

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