第10話 封印の旅

「大昔、マナリア人はその特異な力を利用して大いに繁栄してきました。しかしそれを快く思わぬ人々との間で大きな戦争があったのです。そして私は戦に巻き込まれ、その時に死んだはずでした。しかし国王である父はその事実を受け止められなかった。あらゆる物を犠牲にしてでも私を蘇らせようとしたのです」

「人を蘇らせるなんてそんな事が可能なのか?」

「いいえ、不可能です。けれど国王は生命の源であるマナを私の肉体に大量に注ぎ込むことでそれを行おうとした。結果マナは暴走し、私の肉体を器として魔人ミレーネが生まれてしまったのです……」


 戦争によって溜まった人々の負の感情、そして一つの器にはおよそ収まりきらぬ程の大量のマナは最悪の奇跡を起こしてしまったのだ。


「ミレーネはその後多くの罪のない人々を虐殺し、最後は巨大なスフィアへと封印されました。ですが長い年月が過ぎ肉体が滅びても、存在がマナそのものであるミレーネは精神体となって生き続けました」

「だから俺の肉体を奪おうとしたんだな」

「はい。ですが異なる精神と肉体はそう簡単には馴染みません。長年の封印で力が弱まっていたこともあり今はまだ完全に乗っ取ることが出来なかったのでしょう」

「ならもしミレーネが本来の力を取り戻したら……」

「あなたの肉体を乗っ取り世界は再び恐怖に包まれます。だからその前にもう一度ミレーネを封印して欲しいのです」

「でもそれじゃ君が……」


 ルインの言葉にミレーヌは静かに首を横に振った。


「私は一度死した身、どうなろうと構いません。お願いですルイン、世界を救って……」


 その言葉を言い終えるとミレーヌの体は再び闇に包まれた。


「小娘が、余計なことを……」

「聞いていたんだろうミレーネ、俺がお前を封印する」

「どうやって? お主はその術を知らぬ」

「そうだ。だから俺は旅に出る」

「旅にだと?」

「ああ、お前を封印する旅だ。俺がお前に乗っ取られる前に全ての決着をつけてやる」

「面白い、では勝負だな。我がお主を乗っ取るのが早いか、お主が我を封印するのが早いか。せいぜい寝首を掻かれぬよう気をつけることだ」

「負けないさ。俺には心強い仲間がいるんだからな」


 一つの肉体に二つの魂、敵対者同士の奇妙な共同生活が幕を開けた。

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