タフネス


「で、では何か連絡事項等があったら……」

「はーい。このまえ園長が園庭の花壇の肥料に欲しいって言ってた牛フン、五丁目の牛飼ってる農家さんから届いてますよ。裏に置いてありますけど200㎏くらいあるそうです」

「わかった。今夜のうちに花壇に撒いておく。他は?」

「あ、園長。裏の備品倉庫の屋根、雨漏りしてました。早めに直さないと中にしまってある、卒園児が作ってくれたトーテムポールが傷んじゃうんですけど」

「なに!? それはイカン! あれは毎年、運動会の入場門になる思い出の作品。わかった、それも早急に対処しよう」

「業者さん、手配します?」

「プロになんか頼んだら金がかかる。勿体ないから俺が直す」


 200㎏の牛フンも屋根の木材もドンとこい。何のために日頃から鍛えてると思ってるんだ! 


 気を取り直してミーティングを続けていると、園長室のドアがノックと同時に開いた。


「おつかれさまです。ミーティングまだ終わりません? お迎えのお母さんたちがもうけっこういらしてて、副担だけじゃ手が回らないんですけど」


 ヒョコッと顔を出したその保育士に、油断していた俺の胸がキャンと鳴いた。


「あら、りかこ先生。今日はお休みじゃなかったの?」

「そうなんですけど、忘れ物を取りに来たらあんまり忙しそうだから。このまま引き渡しを手伝っていきます。いいですよね、園長」


 ニッコリ笑う理賀子……いや、りかこ先生に俺は寡黙にうなずく。


「あー……他に無ければミーティングは終わりにする。最後の園児を引き渡すまで、みんな気合を入れて。ヨロシク!」


 ”よろしくおねがいしまーす”と間延びした返事を残し、それぞれが持ち場へと散っていく。

 俺自身も気を引き締めて、ついでにエプロンの紐も締めなおして椅子から立ち上がった。


「園長も手伝ってくれるんですね、引き渡し」


 理賀子が傍に寄ってきて、一緒に歩き出す。


「当たり前だ」


 一日のフィナーレとも呼べる引き渡しの時間はまさに戦場。俺が出陣しなくてどうする!


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