獲物を追う

※※※


 タレコミによれば。

 ターゲットは毎晩のようにこのパチンコ店で、女房子供を連れて閉店時間までスロットに興じているらしい。


 今夜も例に漏れず、奴は3Fフロアのスロット台の前でシャリシャリとメダルを連投していた。その隣の台に女房の姿。

 三歳になる息子はパチンコ店特有の大音響の中で、母親の座る椅子の根元でウトウトと舟を漕いでいる。


(…………)


 俺は背中合わせの列の隅に座り、静かにその時を待つ。決して目立ってはいけない。


 何本目かの煙草がもみ消され閉店時間の23:00間際になった頃、その時は訪れた。


「──便所! 行ってくるから残ったメダル、カウンターで数えとけ!」


 大音響の中、女房に怒鳴りながらヤツが立ちあがる。

 この後カラオケ屋に行って飲み食いし、午前2時過ぎに帰宅するルーティンも調査済みだ。今しかチャンスはない。


 俺はさり気なく席を立ち、ヤツの後姿を追って便所に滑り込む。そして面白くもないといった顔で用を足すターゲットの隣の小便器に並んだ。


 ヤツの放つしみったれたチョロチョロ音に、俺の威勢のいいシャー音を合わせてやる。


 チョロチョロ……

 シャー!


 チョロ……

 シャーー! アァァァァーー!!


 ヤツがこちらの便器をチラッと覗き込み、負けを認めた気配を俺は見逃さなかった。


 ──さあ、始めるか。




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