誓いのキス

※※※


 それでも彼が隊に向かう日の前日、あたしはやっぱり不安で怖くて泣きながら彼の胸にしがみ付いた。


『お願いお願い。だったらせめて、あたしにあなたの跡をつけていって。だいすきだよ、あたしはあなたが……』


 胸元の革紐をほどこうとするあたしの指を、彼の大きな手がそっと包んでそれ以上の無茶を留めてしまう。


『嬉しいけどそれもダーメ。きみには未来があるかもしれない。だからそれも帰ってきて結婚式を挙げたらね』


 似合わないウィンクでおどけてみせる彼がなんだか怖い。


『いやだよ、あたしだけの未来なんかいらない』


 またおでこが、つんってされた。


 ホントに彼っていつもそう。普段はぽわわんってしてるくせに、そういうとこは頑固。

 断られちゃったあたしって、なんだかすごく恥ずかしい。


 でも……彼はちゃんと約束どおり今日の結婚式までに帰ってきた。





 ──彼のいつになく真面目な顔が近づいてきて……


『……あいしてる』


 確かに耳に残る約束。そして静かに彼の唇があたしの唇に触れた。


 約束通り愛の言葉、聞かせてくれたね。



 でも……やっぱり信じられない。

 あたしとの約束を守る為に、なんだかよくわからないけどすごく無理してないかな。


 だって、あなたは確かに約束どおり一週間前に帰ってきた。

 帰ってきてはくれたけど、撃墜されたにしては綺麗な状態だったけど、



 でもあなたは息をしていなかったじゃない……。


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