ドレス、ブーケ、髪飾り
連れ帰ってくれた隊の人が埋葬してくれた。あたしはあなたとお別れしたじゃない。
すぐ帰れる隊ってそういうこと? うそつきうそつき……と繰り返し叫んで。
そのままあたしは、町の人が居なくなっていくここに残る事にした。
隊の人が一週間後の今日、まさに約束した式を挙げる日にまたここに空爆があると教えてくれたけど。
この小さな町とその周辺は、占拠よりも落とす目的の都への見せしめとして一掃されるんだと聞かされたけど。
もうあたしには何も残ってないから。
一週間なにも喉を通らず、泣き暮らしたあたしは痩せてしまって、せっかくピッタリにあつらえたドレスはゆるくなってしまっていた。
特に胸元。カパカパ開いちゃって情けない。
ブーケもなくちゃやっぱり寂しい、と裏山に行ってみたら、マツムシソウしか花らしいものはなかった。
華やかさとは無縁の、くすんだ紫色の花。
でもこれが気に入ってあたしはブーケと髪飾りをこしらえた。彼に手向ける花としても、今の自分を飾るのにも、これ以上のものはないだろう。
紫のブーケとゆるんでしまったウェディングドレス。
これはあたしが彼を愛した幸せの証。
結局、一度も綺麗だよと言ってもらえなかったのが心残りだけれど、最期に袖を通して逝こう。
そうして鏡に映った自分の花嫁姿をぼんやりと眺めていたら……。
『おまたせ。教会まで走るぞ』
今日のためにあつらえたタキシードを着た彼が、あたしの手を掴んで家を飛び出したのだ……。
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