ヴェール

 ※※※


 彼の指先がヴェールをそうっとはらう。

 私ったらガラにもなくドキドキして、顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかる。


 牧師パストーレ様が居てくれたら、なんとなく儀式の言葉に流されてイエスの言葉をサラリと答えればいいのかもしれないけれど。



 牧師様だけでなく、きっといま町はあたし達以外誰もいない。


 パパもママも最初の爆撃の時逝ってしまったから。

 町の人たちも、それを皮切りに蜘蛛の子を散らしたようにこの町を後にした。

 どこに行っても同じだと思うけれど。


 パパは、

『こんな小さな町、制圧してもなんのメリットもない。だから大丈夫に決まってる』

 そう言ってたのに、うそつき。


 でも、彼はうそつきじゃなかった。


『配属が決まった隊は一度行けばすぐ戻ってこられる隊だから。必ず、式までには還ってくるよ』


 そう言ってまた間抜けに微笑む。


『でもでも、やっぱり怖いよ。ねえ、どこか身体が悪いって嘘をついて。そうすれば行かなくてすむんでしょう?』

『ダーメ。そんなずるいこと、できないよ』


 そしてあたしのおでこを、つん。


 だから約束した。

 絶対、結婚式までには帰ってくるって。愛の言葉、あたしに聞かせてくれるって。


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