メリークリスマス‼︎じゃないけど、グラサンかけたサンタさんからのプレゼント

ベームズ

はい。まじですんません。

バァン‼︎‼︎



「アイドルやるぞ‼︎殺すぞォ‼︎」


「ええぇー‼︎!?」


とある事務所のせまい個室に監禁同然に閉じ込められていた『カタリィ』は、いきなりドアを蹴破って入ってきた『トリ』の豹変ぶりに混乱する。


「トリ!?その格好は、それにアイドルって一体どうしたの?普段の物静かな君はどこへ行ってしまったんだ!?」




トリは、現在、いかついグラサンに、黒服と、まるでヤクザみたいな格好をしている。


「そんなキャラ知らんわー‼︎とにかくアイドルやるぞ‼︎じゃなきゃ殺すぞォ‼︎」


語尾が「殺すぞォ」になっているトリに、若干引き気味のカタリィ。



「アイドル?いきなりどうして?それにこんなところに閉じ込めて、これから隣町の山田さんちに配達の仕事に行かなきゃいけないのに‼︎」


今日は、以前から依頼を受けていた山田さんの小説が完成して、それをこれから届けに行くところだった。


なのに、気がつくとこんな個室に監禁同然に閉じ込められて、変な格好をしたトリに殺害予告を受けている。




悪い冗談にしか思えないカタリィは、まるで悪夢でもみているかのような気分になる。



「そりゃぁ……お前……なぁ……?」


ほわんほわん……


と、口で言いながら回想を始めるトリ。







事の発端はつい数時間前、


カタリィはトリにある愚痴を言っていた。


「ねぇ、トリ?確かに『詠み人』として選ばれた以上、責任を持って人々の心に封印された物語を一篇の小説にして、その物語を必要としている人に届けるという使命は果たすよ?」



トリは黙って話を聞く。




「……この仕事は楽しいし、やりがいも感じている……」


うんうん……


と頷くトリ。


「……でも!!この世界にはあまりにも人が多過ぎるよ‼︎」


悔しそうに机を叩くカタリィ。


現在、カタリィが住む世界には、単純計算でも数億人がいる。


カタリィの現在の仕事の進み具合といえば、


最短でも1日数人、


遅い時は数日で一人なんてこともある。


物語を必要としている人間を一人一人このペースで当たっていると、とても一生では全部の人間を回りきれない。




「一人一人回っていたら一生かかっても一割も終われないよ。何か効率の良い方法はないかな?」


まるで藁にもすがる思いで絞り出した言葉。


カタリィも、決してこんなワガママが許されるなんて思っていないし、言ったらそれでこの件は終わりにしようと思っていた。




だが、



それを聞いたトリは考えた。



自分の持ちうる、あらゆる知識を総動員してカタリィの思いに応えようと頑張った。





徒歩という遅すぎる移動手段、方向音痴ゆえの仕事の遅れ、仕事の日規則制による、不安定な収入、一つずつしか依頼をこなせないという、圧倒的な手数の足りなさ。



そして何より、カタリィが楽しい仕事をこなせるように……


これらを全て考慮して検討した結果。



(伝達方法、移動手段は、テレビ……?)


言って、テレビの電源を入れる。


(……全国放送……詩……歌……歌詞……詩‼︎)


「アイ……ドル……」



「アイドルやるぞォォォォォォ‼︎」



こうして今に至る。


「心の中に封印された物語を小説にできるなら、そのまま詩を作って、歌にして大勢に聞いてもらった方がお前の要望にも添えると思ったんだよコノヤロー‼︎」


能力の特性上、詩にこまることはない。



有名になれば、配達に行く必要もない。

なんなら向こうから来てくれるからだ。


「……マジか〜」


確かに筋は通っている?ような気がする。

と、納得してしまうカタリィ。



「そうと決まればすぐにデビューじゃあ‼︎」




「色々すっ飛ばし過ぎだろー‼︎」



流れるようなノリツッコミ。


「大丈夫‼︎お前がそんなこと言うなんて想定内だ‼︎……安心しやがれ、ちゃんと準備は整えてきた。」



そう言ったトリは、胸を張って自慢げに語る。


「覚えているか?以前お前が依頼を受けた客の中に芸能界の関係者がいたことを‼︎」


「……知らない」


まさか!?と、内心思うカタリィ。


「そう、この数時間で俺は、そいつと話をつけてきた‼︎全力で支援してくれるそうだ‼︎」


もう事務所も立ち上げて、プロフィールも公開されているらしい。


「ここって、事務所だったのか……」


「そして!!ここに所属する唯一にして、トップアイドル‼︎それがお前だァ‼︎」


ビシッと、カタリィを指差してキメ顔のトリ。


「僕が、トップアイドル!?」






「で、でも、一人じゃ難しいんじゃ……」


スムーズに進み過ぎる事に驚きを隠せないカタリィ。



そしてそんなカタリィがそこを不安に思うのを想定しないトリではない‼︎



「そこも問題ない‼︎そう言うと思って、俺が知りうる人脈の全てを使ってお前を全国トップアイドルにできる、凄腕のプロデューサーを用意した‼︎」


そう言って、自分で蹴破って破壊した入り口を指差すトリ。


「――――っ!?」


そこから入ってきた人物を見て驚くカタリィ。


「始めまして‼︎お手伝いAI……改め、凄腕プロデューサーAI、リンドバーグです‼︎」


クイッ、と帽子をなおして現れた女性。


通称バーグさん。


バーグさんは、キリッとした表情で語りだす。


「私が来たからには、サメや恐竜や宇宙人だってビックリの、とんでもない大物アイドルにあなたを育てて見せます‼︎」




もうめちゃくちゃだ……


頭を抱えるカタリィ。




こうして、


カタリィは、トップアイドルへの道を歩むことになった。



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