南アジア条約機構─S.A.T.O

#9 南アジア条約機構首脳会議

 S.A.T.O南アジア条約機構ASEAN東南アジア諸国連合を前身とする同盟である。そのため、全17カ国の加盟国の半分以上が旧ASEAN加盟国だ。そしてそこにインドから以東の国が混ざるようにして現在のS.A.T.Oができた。


 加盟国は次のようになっている。インド、バングラデシュ、スリランカ、ネパール、モルディブ、インドネシア、フィリピン、ベトナム、ラオス、カンボジア、プノンペン、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、タイ、ミャンマー、東ティモールだ。


 そしてベトナムの宣戦布告から2週間経った8月27日、ニューデリーにあるS.A.T.Oの事務局で、16人の首脳が映る画面を前に、インド首相カービアが椅子に腰掛け、机に両前腕を乗せて指を絡めて前に体重を預けていた。


「皆さん、画面越しながらお集まりいただきありがとうございます」


 カービアが流暢な英語で場を仕切り始めた。


「皆さんご存知かと思いますが、状況整理のためにも現在に至るまでの戦況を確認していきます。


 まず、8月15日にベトナムが中国に対し宣戦布告をしました。これは、我々S.A.T.O内での合意のもと行われたものであり、ある意味ではこの宣戦布告自体が中国に対する最後通牒であると言っても過言ではないでしょう。このときから南シナ海において我々インドが派遣した……失礼、貸与した空母らと中国の打撃群との衝突が起こり始めました。しかし、双方とも空母を前面に出すのを渋り、小競り合いが続きました。その結果、未だ南シナ海の制海権、制空権は奪取しきれていない状況が続いています。


 そして8月22日、中国によるベトナム本土侵攻が始まりました。まあ、これは一時的なものですぐにこちらが反転攻勢に出ましたが」


 どこからから(音の出所自体はスピーカーからなのだが)鼻で嘲るような笑いが聞こえた。


「とまあ、開戦2週間で戦況はあまり変わっていません。それは仕方ないでしょう。今までは序章です。どちらかが深入りすれば、アジア二大勢力による全面戦争が始まるかもしれないのですから。


 知っての通り、敵は中国だけではすみません。ベトナムにS.A.T.Oが付いているのと同じように、中国には上海協力機構という、おそらく世界最大級の同盟が付いているからです。このままS.A.T.O各国が中国に宣戦布告すれば、必ずロシアを筆頭に向こうも全面的な布告をしてくることでしょう。そうすれば我々も向こうも無事ではすまない。だが、我々は進むことをやめないでしょう。もう決めたことだ。だが、あえて私は問います。全ての豊かな土地を、豊かな資源を、今まで築き上げてきた全てのことを、愛すべき国民を、……地獄に叩き落とす覚悟はできていますか」


 カービアが乾いた唇を内側に巻き、湿らす。気づけば、彼は椅子から立ち上がり、机に手をついた状態でいた。彼は服を正し座り直した。浅い呼吸音が、モニターの明かりに灯された暗い部屋を支配する。


「はっ、何をいうかと思えばそんなことか」


 シンガポールの首相が、何を今更、と呟く。


「盟友ベトナムがすでに身を削り正当な領海を得ようとしているのに、我々がそれに協力しないで何のための同盟か」


「上海協力機構がなんだというか。我々の足元にも及ばないであろう」


「聞きたいのなら何度でも言ってあげましょう。我々インドネシアはS.A.T.Oと運命を共にし、東南アジアの底力を見せつける」


「フィリピンとしても同意見だ。国民の意志も硬い」


 それを境に、ほかの国の首脳陣も参戦の意志を再表明した。


「いいでしょう。それではS.A.T.O総合参謀長に変わります。これからの戦争展望についての話があります」

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