【8-7話】

「なぁ! なんでだよ! ソラが何か、悪いことをしたのかよ! 僕が何か、悪いことをしたのかよ!」


 僕らはただ、平和な日常を望んだだけだ! それなのに! こんなのって、あんまりじゃないか!

 どうしてソラなんだよ! どうして僕なんだよ! どうして、僕らばかり不幸なことが起こるんだ! もっといるだろう! この世界にはさぁ! ほかの人にしてくれよ! 一体、何の罰なんだ! これはさぁ!


 罰を受ける人なら、いっぱいいるだろう!


「う……うぅ……」


 そうだよ……いっぱいいる。


 利益を得るために平気で殺しをやる殺人者。

 人の人生を狂わせる巧妙な詐欺師。

 サービスエリアから逆走してきて、僕の両親を奪ったあの車。

 そして……目の前の強盗犯……。


 罰は僕らが受けるものじゃない。真面目に生きている僕らが受けるものじゃない……。

 規則を破って、それで人を不幸にして……。他人の迷惑を何も考えない。そんなクズみたいな人間が得をして、善人が損をする。そんなの……間違ってるだろ……。


 あの時から、僕は何も変わっていない。ソラを守れているつもりでいた。けど、また、守れなかった。残された最後の家族を……希望を……守れなかった。僕は……。


「何も、変わっていない……」


 あの時から、何も……。


 世界も。


 怪奇事件の発生条件が周知された世の中で、犯罪件数は減った。それでもなお、規則を違反する者は絶えない。殺人事件も強盗も、ゼロにはならない。結局、何も変わっていない。


 モラルのない人間がいない社会。規則違反がなくなる社会。

 そんなものがあれば、僕の家族は、死なずに済んだのかな?


「なぁ、ソラ……」


 そう思わないか? だってさ、おかしいじゃないか。僕らは幸せになるべき人間だったはずだろ? どう考えてもそれが、道理だろう?

 それでも違うってことはさ……



 間違っているのは、僕らじゃないんだよ。



「…………」


 なんでもっと早く気づかなかったんだろう。

 考えてみたら、今まで何度も疑問に思ってきたことだ。

 三年前のあの時からずっと、思ってきたことだ。

 理不尽でどうしようもなくて。

 腐っていて。

 決まり事はあってないようなもので。

 モラルと呼ばれる人を想う心は欠け。

 社会全体が麻痺していく。


「分かった……」

「せ、先輩?」


 僕は立ち上がって、店内を見わたす。

 数多くの血痕。警察と現場に居合わせたお客さん。連行される強盗犯。散乱した弾丸の数々。倒れたいくつかのテーブル。こぼれた飲み物、食べ物。


 あぁ、汚れている。


「分かったよ……ソラ」


 景色が変わった気がした。瞳から光が消えたような、そんな感覚。僕は前にも、これを感じたことがある。



 見ていてくれ、ソラ。僕が、何とかしてやるからな。

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