【7-1話】

 待ち合わせ場所の東I駅。

 普段見慣れない私服姿の黄倉おうくらさんが、改札から走ってきた。


「すみません、灰川はいかわ先輩。お待たせしました」

「いや、問題ない。大して待っていないから」

「どの服にするか、迷ってしまいました」


 雪柄の入った白ニットの上から茶色のハーフコートを羽織り、赤いスカートで女の子らしいコーディネート。頭にはスカートと同色のベレー帽を身に付け、上半身を挟み込む。


 見ていて何だか、勝負服って感じ。黒タイツで生足を露出させてはいないものの、短めに調節されたスカートがそれを裏付けている気がした。


 まぁ、僕が意識過剰なだけかもしれないけど……私服姿の黄倉さん、すっごく可愛い。


「えっと、すごく似合っていると思う。うん……」

「そ、そうですか? ありがとうございます……」

「……」

「……」


 なんだ、この気恥かしさ。いや、事実を言っただけなのに、無性に恥ずかしいんだが……。

 僕、ちょっと気にしすぎじゃないのか? 相手は黄倉さん。一年半、同じ委員会で何度も話していた後輩じゃないか。


 ちょっと落ち着こう。こんな態度で接していたら、黄倉さんもやりづらいだろう。


「それじゃあ早速、ショッピングモールに行こうか」

「は、はい!」


 とりあえずこの緊張に包まれた状態を脱するために歩きだす。ショッピングモールまでの徒歩十分。ここでこの緊張を解すことにしよう。


「このショッピングモール、確か半年前くらいにできたんだよね? 黄倉さんは来たことあるの?」

「は、はい。自分の家は、ここから一駅の距離なので、買い物する時によく来ます」

「そうなんだ。実は僕は初めてなんだ。I市とT市は隣だけど、学校と反対の方向だからあまり来ることがないんだ」

「そう、なんですか。妹さんと遊びに来たりは、しないんですか?」

「来ていないな。昨日、ここに行くって話をしたらすごく羨ましがっていたけど」

「仲がいいんですね。自分も弟がいますけど、中学三年の反抗期だからか、最近は生意気です」

「黄倉さんはお姉さんだったのか」

「はい。姉らしいわけではないですけど。灰川先輩は、見るからにお兄さんって感じがします」


 まぁ確かに、自分でも「兄」という自覚が強いけど。風紀委員長も二年やっているわけだし、後輩である黄倉さんがそういうイメージを持つのは納得だ。



 緊張も解れ、いつも通りの感じで会話をしているとショッピングモールに着いた。中に入ると、モールというだけあって空間が広い。一日では回りきれないとテレビで宣伝していたけど、確かにこれは一日では回りきれないかもしれないな。


「黄倉さんはこのモールに来るときは何を買うんだ?」

「主に服でしょうか? 雑貨も買ったことがあります」

「これだけ広いと、迷いそう」

「そうですよね。今着ている服も、このモールで買ったんですよ」

「そうだったんだ」


 周りを見ると、オシャレな女性向けの専門店がたくさん入っている。これだけあると、どこで買えばいいのか、無駄に考えてしまいそうだ。


「灰川先輩の服装も、オシャレですよね?」

「そうか? 僕は駅前の服屋で買ったものだから、そこまでだと思うけど」


 黒ジャケに白シャツ、黒のチノパンというすごく無難な服装だしな。オシャレとは言えないのではないだろうか。


「い、いえ。自分、そういう服装が好きですので……。先輩の私服、カッコイイと、思います……」


 黄倉さんは頬を紅潮させる。僕もそれに釣られてしまった。


 いかん、照れる。やっぱりどうしても、意識してしまうな。黄倉さんが照れ混じりに言うもんだから、余計に。


 僕らはお互いに目を逸らしたまま、本屋に向かった。


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