【4-2話】
「兄さん、おかえり。今日も遅かったんだね」
ソラが玄関で出迎えてくれた。
「ごめん。今日も委員会が忙しくて」
「引退しているのに大変なんだね。お疲れ様」
「あぁ……」
早く帰ろうと思っていたのに結局、家に着いたのは十九時過ぎとなってしまった。またソラを寂しがらせてしまって……申し訳ない。
「ごめん、遅くなるのに、二日連続で連絡しないで」
「うん。それはいいけど……」
「お腹空いたよな。今から作るから」
カバンとコートを居間に置いて、冷蔵庫を開ける。
……しまったな。昨日買い物をコンビニで済ませたから、大したものが残っていない。今日の帰りこそスーパーに寄ろうと思っていたが、失念していた。
「ごめん、ソラ。買い物してくるのを忘れたから、今日はコンビニのご飯でいいか?」
「え? う、うん……。別にいいけど」
「ごめんな。明日はちゃんと買ってくるから」
成長期にあまり即席の食事をさせたくはないが、もう遅いし、たまにはいいか。今日は色々あって、疲れた。
僕は脱いだコートを着直して、近くのコンビニに行く準備をする。
「兄さん、何かあったの?」
ソラが僕を心配そうに覗き込む。
「……」
「……兄さん?」
言えるわけがない。あんなこと。
「いや、何でもない。ちょっと風紀委員の仕事で頭を悩ませる案件があって、疲れが出てしまったみたいだ」
「そうなの?」
ソラは僕の言葉を否定しなかったが、得心もしていない様子。だが、本当のことなど言えない。余計な心配などかけられない。
僕は、暗い表情を隠しきれないまま、部屋を出た。
その日の食事は居心地の悪いものだった。
ソラは食事中、あまり僕に話しかけて来なかった。普段なら、学校であった出来事などを楽しそうに話してくれるのに。
幼い見た目に反してしっかりした妹である。きっと僕の調子の悪さを察して、話しかけづらかったのだろう。
小学生の妹に気を遣わせてしまうなんて、僕はダメだな。心配をかけないように、努めて明るくするべきだろうに。
僕は心ここにあらずで、居間の椅子に座っている。ソラは今、風呂に入っている。あからさまに暗そうな僕の顔を見られる心配はない。
「僕は、どうすればいいんだ……」
プリファに言われた言葉が、何度も何度も僕の頭に浮かぶ。夕方に起きた怪奇事件が、フラッシュバックして脳裏に蘇り、消えてくれない。
『私が死んだら、あなたも死んでしまうのですから』
『
僕の中にある能力は、僕の意思で制御しきれず、自動的に発動してしまっている。規則を違反する者が決していなくなることはないこの世界。毎日と言わずとも、必ず僕の周りで死人が出る。
阻止するには、僕が能力を制御できるようになればいい。だが、完全に制御できるようになるのはいつになるか分からない。制御できるようになるための方法も分からない。プリファにも、分からない。
だったら僕が、僕の中にある迷惑な能力と共にこの世界から消えれば、何とかなるかもしれない。プリファの命は僕と繋がれている。こちらとしても好都合だ。
だが、そうなるとソラは一人になる。またソラは家族を失う。
僕もだ。死にたくなんてないし、唯一の希望であるソラにまた、大きな心の傷を与えることになる。ソラの悲しむ顔は、もう見たくない……。
死にたくない……。けど、僕がいる限り、犠牲者は出続ける。
じゃあ、能力を制御できるように努力するか?
どうやって? 制御できるようになるまで、一体、何人の人が死ぬ?
警察に隔離してもらうか? いや、結局ソラは一人ぼっちだ。
分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない……。
肘をテーブルにつけ、頭を抱える。
なぜこんなことで悩まないといけない。
一体、僕が何をしたって言うんだ。
真面目に生きてきたはずだ。
天罰を与えられる覚えなどないはずだ。
頭を休ませる暇が生まれない。知恵熱を起こして倒れそうだ。
ガチャ
キッチンから居間につながる扉の開閉音が聞こえ、僕は意識を戻した。
「兄さん、上がったよ」
パジャマ姿のソラが居間に入ってくる。僕は何事もなかったかのように応じる。
「あぁ、ソラ。風呂の栓は開けておいてくれた?」
「うん」
「……よし。じゃあ、僕は風呂を掃除してくるから」
出来る限り暗い表情を見せないようにして、いつも通りの会話をする。僕は椅子を引いて立ち上がり、風呂に向かって歩きだす。
「ねぇ、兄さん」
「ん? どうした、ソラ?」
「何か悩み事があるなら……言って?」
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