24.共に生きる
生き物を飼う人間は誰でも、遅かれ早かれペットの健康問題と向き合うことになる。
もちろんアクアリストだって例外ではない。水質や水温に異常が発生して生体のコンディションが落ちてしまったり、混泳に失敗して魚が怪我を負ってしまったり、水槽内に病気や寄生虫が蔓延したりといった事例がそうだ。ぶっちゃけた話、大往生させてやるよりも途中で落としてしまうケースのほうが多数派なんじゃないだろうか。
実のところ、わたし自身もまだスネークヘッドの寿命を全うさせた経験はない。
スネークヘッドの寿命は種類によって異なるが、わたしがこれまで飼ってきたような中型種であれば長くて10年程度とされている。この文章を打っている2019年の時点でわたしのアクアリウム歴は約6年なので、そもそもまだ寿命に達する個体がいないだろとツッコまれたらそれはそれでごもっともなのだが、言いたいのはそういうことではない。
人に譲って手放したコウタイを唯一の例外として、わたしとスネークヘッドとのお別れはいずれもアクシデントによるものだったのだ。
謎の急死を遂げたアイスファイヤー。そしてわたしにとってのファースト・スネークヘッドであるブルームーンギャラクシーもまた、早すぎる死から救ってやれなかった命のひとつだった。
アクシデント関係でブルームーンギャラクシーが教えてくれたことは大きく分けて3つある。まずスネークヘッドはわりと頻繁に拒食を発症すること。鱗が剥がれるのは日常茶飯事だからあまり深刻に捉えなくていいこと。白点病(※注1)のこと。
拒食についてはいろんなパターンがあるので一概にこうとは言えないのだが、うちの場合はレイアウト変更の後であったり、驚かせてしまったときであったりした。要するにストレスが原因だったわけだ。
このタイプの拒食は何の比喩でもなく本当に餌を食べなくなるので、正直言って飼い主にできることは多くない。環境に慣れるのを待ったり、水槽のガラス面に暗幕を被せて落ち着かせてやったりするのがせいぜいだろう。そのうちまた食べてくれるようになる。
次に怪我についてだが、スネークヘッドは「ふと見るといつの間にか鱗が剥がれていた」みたいなことがよくある。初めて見たときはレイアウトがまずいのかとヤキモキしたのだが、よくよく考えると砂を掘ったりジャンプしたりがスネヘの日常なわけで、そりゃ鱗くらい剥がれるという話なのだった。アクアセイフ(※注2)でも入れて放っておけば治る。
ただ、エロモナス系の病気(※注3)との区別はつける必要がある。スネークヘッドも穴あき病に罹ることはあるので、おかしいと思ったら調べてみることをおすすめする。
最後に、白点病。
魚の病気としてはおそらく最も有名なものではないだろうか。詳しい説明は『アクア・デイズ』を読んでいただくとして、とりあえずここでは「魚の体表に白いブツブツが無数にできる症状」だと覚えておいてほしい。この白いブツブツの正体は寄生虫であり、放置していると魚は死に至る。
寄生虫の駆除にはもちろん薬を使う。薬はペットショップやアクアショップなら置いているはずだし、なんならホームセンターでも手に入るかもしれない。
……が、厄介なことに、スネークヘッドは薬に弱い。
これはすなわち、水温を上げる、水換え頻度を上げるなど他の手段を総動員して、投薬量を抑えても治療に支障が出ないようにしてやらなければならないことを意味する。
結果を言えば、ブルームーンギャラクシーの死因はこれだったのだろう。
白点病そのものは水槽から根絶できた。しかし、治療期間中に失われた体力はついに戻らず、ブルームーンギャラクシーは完治してから数日後に旅立っていった。
現在わたしはバイオレットスネークヘッドをトラブルなく飼育できている。が、もし拒食や病気が発生したならば、以前よりもレベルアップしたアクアリストとしてベストな対処をしてやろうと密かに心に誓っている。それがわたしに経験を与えてくれたブルームーンギャラクシーのためでもあると思うからだ。
今度こそは、魚と最後まで付き合いたいものである。
◇ ◇ ◇
※注1:詳細は『アクア・デイズ』第43話~第46話参照。メジャーな魚病である。
※注2:テトラ社が販売している水質調整剤の一種。魚の表皮やエラを保護する役割を果たす。2019年現在は後継商品である「アクアセイフプラス」に切り替わっているようだ。
※注3:常在菌を原因とする魚病。鱗が立つ「松かさ病」、体表に穴があく「穴あき病」、眼球が飛び出す「ポップアイ」などが知られている。
アクアリウムとわたし スガワラヒロ @sugawarahiro
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