第46話 守るための力

 カイン達と別れて、僕は自分が泊まっていた部屋にアリンちゃんを連れ帰った。


「ここが……わたしのいえ?」

「うん。」


 彼女は精神を病んでしまい、子供のように僕にじゃれつくようになった。安心した彼女は、僕に抱き着いて匂いをかぐように深呼吸する。


「よしよし……」


 アリンちゃんをあやしながら、これからの事を考える。どうやら僕が来る前の彼女は僕が居ないことに気づくやいなや泣き叫んで暴れていたそうなのだ。再び離れた場合どうなるのか分からない。とはいえ、こんな状態の彼女を連れて働く事はできない。端から彼女を見捨てるなどという選択肢など僕に無いので、どうしたらいいか分からなかった。


「はんな……寝よ……」

「うんうん、分かった。」


 まだ昼間だったが、疲れきっていたのだろう。添い寝した僕を抱きながらアリンちゃんは寝てしまった。そんな彼女の顔はいつもと変わらず美しかった。


 気付くと辺りは暗くなっていた。アリンちゃんの隣から立ち上がったとき、彼女は体を起こしてこちらを見ているのが分かった。


「いかないで……いかないで……!」


 焦った様子で立ち上がった彼女に、僕はすぐさま抱きついた。


「大丈夫だよ。」


 僕はアリンちゃんにキスをし、そしてそのまま彼女と夜通し交わった。普段と同じように、彼女は僕が与える快楽を喜んで受け入れたのだった。疲れて寝てしまった彼女の背中と寝顔を見て、僕は再び寝る事にした。


 翌朝、僕はただならぬ騒音に目を覚ます。見るとアリンちゃんが何やら叫びながら暴れているのが分かった。床をドンドンと叩く音が響き、金切り声を上げて髪をかきむしるアリンちゃんを止めにかかる。


「っ……いやぁぁぁぁ!!」


 彼女に突き飛ばされた僕は、部屋の端にまで飛ばされる。床には自らの頭から出た血が滴り落ちて、自分の意識は朦朧とした。


「はんな……だいじょうぶ……!?」


 触ってきた人間が僕だと気づいた彼女は血相を変えて僕に駆け寄る。


「しっかりして!!だいじょうぶ!?」


 僕は彼女の首の後ろに手を回して、彼女の背中を撫でてあげた。


「平気、平気だから……」

「だれが……こんな……」


 どうやら彼女は自分がしたことを理解できていないようだ。幻覚を見たのか何かは分からないが彼女の中に宿るトラウマがそうさせたのだろう。


「ちょっと……転んじゃって……」

「はんなまでいなくなっちゃいや、そばにいて……ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと……そばにいて……はんなぁ……」

「そうだね……よしよし……」


 寝ている僕を見て、死んでいるのかと思ってパニックになったのだろう。彼女の背中を撫でながらあやす。


「……おでかけ……」

「する?」

「うん……いく。」


 僕は頭の傷に応急措置をした後、アリンちゃんを連れて街の外に出た。丁度いい機会なので、一緒に買い出しをする。少し前では考えられないほどにくっついてくる彼女に複雑な気分になりながら街を歩く。


「怖くないよ。」


 街の人たちは彼女に奇異の目を向ける。でも、僕は気にしていなかった。食べ物、服をさっさと購入し彼女の手を引く。不意に、アリンちゃんはすれ違った男に肩を当てられる。彼はアリンちゃんを見るや否や怒鳴り始めた。


「そんな女連れてんじゃねぇよ気持ち悪い。」

「アリンちゃん、行こう。」

「うん。」


 気持ち悪い、そんな狂った事を言っているやつは放っておこう。


「よし今日のお買い物は終わり。どうだった……?」

「おもったよりこわかった……」

「そっか……」

「ひとり、がんばる。」

「そっか……」


 彼女がそう言うのなら、今度は一人で出掛けてみようと僕は思った。


「そうだ、買い忘れたものがあるんだ。ちょっと行ってきてもいいかな?」

「うん。」

「じゃ、大人しく待っててね。」

「いてらっしゃい。」


 歩いていくと、アリンちゃんを置き去りにした扉はどんどん小さくなっていく。心細さを胸に僕が向かったのは武器屋だった。情報によると、まだ捕まっていない革命軍リベレーターの中にはあのディアス・ハイドリヒもいるというのだ。帝国で彼らの壊滅を喜んでいるが、彼がいる間はいつ何があるかは分からない。そこで僕は新たな武器を発注していた。


「MP13ペインブレイカーを発注したハンナだよ。例のものは?」

「はい、ございます。」


 桐箱の中から出てきたのは黒く輝く中型の銃杖じゅうじょうだ。これは最新の錬金技術の結晶である永久機関を用いて魔弾を連発することができるというものだ。


「試し撃ち、できる?」

「はいもちろん。」


 これ用にチューニングしたスコープを取り付けて狙いをつけ、射撃する。弾は二発少しずれたタイミングで撃ち込まれているようだ。


「これは……?」

「ライフリングに彫り込まれた特殊なルーンで弾と同威力の魔力弾が出る仕組みとなっております。これによって連射が更に加速されますし、使用する弾丸の削減にもなります。」

「成る程ね。」


 ここまで購入した武器のなかでは最も値段の張るものだったが、それだけの価値はあるだろう。もうアリンちゃんをこれ以上はひどく傷付けさせない。その為ならどんな対価でも支払ってやる。


「ありがとう。」 


 ケースに銃をしまって、僕は部屋へと向かった。

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