第44話 従者の憂鬱

 カインは帝都の病院から出てきた。そんな彼にローシャが近づく。


「エリーゼさん、どうだった?」

「まだ手術が終わってないみたいだ。」

「……そうか。」


 カインはこの戦いへの協力で、かなりの金を持っているが今はそれどころではなかった。上司のエリーゼは重傷を負い今も意識が戻らないからだ。


「お前はこれからどうする?」

「今はエリーゼさんが気がかりだ。しばらくは帝都にいる。」

「アタイも一緒にいていいか?」

「あぁ。助かる。」


 カインはハンナとフード目深に被った亜燐が一緒に歩いているのを見つけた。その二人の方から歩いてやってきてカインに話しかけてきた。亜燐の表情は以前のような張り詰めた様子は無かったが、かといって生気を感じる訳でもなく彼からは不気味に見えた。


「もしかして、エリーゼさんのお見舞いに来たの?」

「まぁな。顔を見る事は出来なかったが。」

「やっぱりね……こっちは見ての通り、アリンちゃんのお見舞い。」

「それで、アリンはどうだったんだ?」

「リンを殺したって事がきっかけでヒステリー状態になってるみたいなんだ。これからしばらくはずっと一緒に居てあげることにするよ。おいで、アリンちゃん。」

「……」


 亜燐はカインとローシャとは話す事無く、ハンナと共に歩いて行った。彼女らを見送って、二人は帝都にあるカインの家に入った。


「僕に付き合わせてしまって申し訳ないね、ローシャ。」

「気にするなよ。お前の大事な上司だ。それにな……」


 ローシャは杖を握りながら俯くカインの背中をそっと撫で、そして抱き寄せた。


「……アタイは今のお前を放ってはおけないんだ。気が済むまで一緒にいてやるよ。それでいいだろ?」

「あぁ。」

「辛気臭いなぁ……まぁ良いか。エリーゼさんが目覚めた時、笑顔見せられるように今のうちに落ち込んでおけ。」


 カインはぎこちなく彼女にキスをして返す。ローシャは彼の意思を察して、照れながらもあきれたように言う。


「……ったく、そうならハッキリ言ってくれよ。男なんだからさ……」

「悪い……でも、この心のわだかまりを……どうにか取り去りたいんだ。」

「いいよ、アタイだっていつかしたいとは思ってたからさ。」


 二人は辺りが暗くなるまで互いに体を重ねあった。事を終えて、カインはすぐに寝てしまった。何やら寝言を言いながらローシャに身を寄せる。


「ったく、疲れてたのか?」


 ローシャは寝ているカインにそう言って頭を撫でた。そして彼女はゆっくり起き上がって着替え、テキパキと二人分のパスタを作った。机の上に二つの皿を置いた時、彼女はカインがこちらを見ている事に気が付いた。にわかに彼女の頬が赤く染まる。


「お、起きたのか……カイン。」

「あぁ……」


 カインもまた、彼女を直視することが出来ない様子だった。


「って、お前まで照れてどうするんだよ!!」

「仕方ないだろ初めてなんだから。」

「もう……パスタ作ったぞ。食べようぜ。」


 ローシャと向き合うように椅子に腰かけた彼は、祈りを捧げてからパスタを食べ始めた。


「どうだ?」

「……うまい。」

「そうか。」


 ローシャもまたパスタを食べてみる。いまいちだなと思いつつも、その素振りを見せないカインをふと見てみる。


「どうした?食べないのか?」

「悪りぃ。ちょっとぼーっとしてた。」

「そうか……冷めるぞ。」

「言われなくても分かってるっての。」


 パスタを大きめに巻き取って頬張るローシャを見て、カインは彼女に少し笑って見せる。それを見たローシャは机をバンと叩いて彼の顔を覗き込む。


「騒がしいな……というか近いぞ……」

「今お前笑ったか?」

「お前を見てたら何となく元気が出たよ。」

「そうか!?良かった……!!」


 彼女はそう嬉しそうにそう言いながら涙を流していた。


「……心配させて悪かったな。」

「心配しねぇ訳ねぇだろぉ馬鹿ぁ……ぐずっ……」

「今は飯食べなよ。冷めたら不味くなる。」

「元々美味しくなんかねぇよ……」

「そうか。」


 翌日、二人は再び病院に向かった。エリーゼの病室に入ったが、彼女は眼を閉じてベッドの上に寝ているだけだった。そこに彼女を担当する若い医者が入って来た。


「先生、エリーゼさんは今どんな状態なんですか?」

「傷の治療は終わって、今は魔術で寝かせながら体力の回復を図っています。ひとまず山は越えましたが、すぐには普通の生活には戻れないかと思われます。」

「そうでしたか……とりあえず、命は助かって良かった……」


 その時、病室に入ってくる人がいた。彼女の親友であるフィグネリアだ。


「フィグネリアさん、どうしてここに?」

「彼女が重傷と聞いて駆け付けたんだ。外で話は聞いてたぞ。」

「そうでしたか……」

「助かりそうでひとまず良かった……エリーゼ、また来るからな。」


 彼女はエリーゼの手を握ってそう言うと、カイン達と共に病院の外まで出た。


「そういえばフィグネリアさん。エリーゼさんは何故ここ最近になって革命軍に必死になっていたんですか?」

「……まぁ話しても良いが、ここで話すような事ではないな……私の借りてる部屋まで来てくれないか?」

「構いません。」


 フィグネリアは、二人を部屋に招き入れてエリーゼの過去の話を始めた。





 


 


 

 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る