第10話 森の罠

 翌日、聖域である禁断の森へと足を踏み入れた。歩いていると、森の一区画を取り囲むように虹のような線が現れた。


「何かしらね、これ。」

「結界の一種だ。どうやら、この中には6人

以上入れなくなってるようだな。」


 カインが私の呟きに反応してきた。確かに、数の暴力で押しきられるように作っていたのでは試練として成立しないだろう。


 虹を越えた先は、不気味な形に曲がった大枝や幹を持つ不気味な木が沢山生えていた。何やらジメジメしていて不快な感覚を覚える。ふと周りを見ると、二足で立つ鳥のような竜のような生き物がこちらを見ていた。


「気を付けて…右に何かいる。」

「ヴェロシラプターか…そんなに大きくないけど厄介だよ。群れを作ってる場合が多いんだ。」


 ハンナの言う通り、一体がこっちに向かってくると数頭がそれについて襲いかかってきた。


八仙暗刃やせんあんじん!!!」


 ラプターが翼のような前足に生えた爪で攻撃しようとする隙を突き刀を即座に抜刀し、斬りかかる。その攻撃でラプターの体は真っ二つになった。別の一頭はローシャが弓で頭を撃ち抜いて倒したようだ。


「アリン!!後ろ!!!」


 エリーゼの声に振り向くと、ラプターが私に飛びかかってきていた。攻撃をなんとか剣で防いだが、あまりの力に押し倒されてしまった。


「やめてっ…!」


 咄嗟に足で横腹を蹴るが、見かけ以上に強靭なその体が怯む事は無かった。


「ダークニル!!」


 カインが魔術を放ちラプターに命中すると、ラプターの動きが止まった。


「今のうちに攻撃しろ!」


 カインにそう言われたがどうやらカインの魔術は私にも命中していたようで、手足が動かない。


「私まで動けないじゃない!!このヘタクソ!!!」


 バツの悪そうな顔をするカインに私は思いっきり言ってやった。結局エリーゼが停止したラプターに止めを刺して、私はハンナに魔術を解いてもらった。


「今のは悪かった…」

「全く…この後の戦闘に支障が出たら責任取ってよ。」


 そう言ってはみたがハンナの解呪は完璧で、剣を振ってみても違和感は無い。


「まぁまぁ…気ぃ取り直して行こうぜアリン。」


 息をついて、私は気分を落ち着けた。


 しばらく道沿いに歩いていると、岩山のような祠があるのを見つけた。その石の扉の真ん中には木の葉を型どったくぼみがあった。


「何かをはめ込めば、空くのかしらね。」

「祠を取り囲むように道が続いてるようですし、その先に行けば何かありそうですね。」


 カインとエリーゼがそう言うように、祠の周りを歩いて何かがあるのかを探してみることにした。しばらく歩き、ちょうど祠の後ろに来た辺りに全体に苔の生えた腕の無い女神像が立っていて、そのへそには木の葉を型どった金の飾りがあった。


「これ…かな。」

「待って。何か仕掛けがあるかも知れないから、私が行くわ。」


 エリーゼが慎重に女神像に近付いてみるが、特に敵がやってくる様子は無さそうだった。しかし金の飾りに手を触れると、奇妙な事が起こった。地面が心臓が鼓動するように揺れ始めたのだ。


 女神像の肩からは太い蔓が生えてそれが近くの三又槍を掴み、胴体の下からは鋏の無いサソリのような下半身が姿を現した。女神像は左手でエリーゼをつかむと尾の針で刺そうとしたが、エリーゼは蝙蝠の群れに変身してそれを回避した。


「また厄介そうなのが出たわね。」


 エリーゼはそう言うと剣を大量に召喚して、全てを本体に見える女神像に向けて発射する…が、命中したものを含めて全て弾かれた。


「あんなに硬いなんて…」


 今度は女神像が三又槍を地面に突き刺すと、大量の細い蔓が地面から生えてきて、私達の足を取るように絡み付いた。


「気高き英霊よ…有象無象を跳ね返せ!ミラードーム!!!」


 カインがそう唱えると、私達を取り囲むように弱めの結界を張った。結界の外に蔦が追い出されて止まっている。


「これで蔦くらいなら入ってこられないハズだ…みんな、俺が魔力切れになる前に倒してくれ!!」


 女神像は三又槍を、ハンナに向けて突き刺した。ハンナは寸での所でそれを交わしたが、女神像は立て続けに攻撃をしかける。恐らく次の攻撃はかわせない。


「まずい、このままじゃ…」


 私はこれを止めようと女神像を見ると、背中に割れ目があってそこから蔓が延びているのが見えた。一か八か、そこに攻撃を加えようと走っていく。


落隼嘴らくしゅんさッ!!!」


 飛び上がりながら刀の鋒を立てて、前屈みに

なった女神像に突き刺すと、女神像は暴れて私を太い蔓で叩き落とした。


「痛ったた…」


 どうやら蔓にはトゲがあったらしく、私の右腕には刺さって引き裂かれたような傷ができている。とはいえ短縮詠唱で回復を使えるカインは今、ミラードームを維持するので精一杯だ。弱点は分かった。出血で倒れる前にやるしかない。


「私があいつを引き付けるから、ローシャとハンナで背中を狙ってみて。」

「アリン、私も前に出るわ。紡ぎ踊れ…フラガラッハ!!!」


 エリーゼは召喚した剣を集合させ、自分の持っていた直剣を波打ったような形の刃に変化させた。


「助かります!はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 私とエリーゼはサソリの体に連続攻撃を仕掛けるが、体はどんどん再生していく。しかし、それによって女神像は私を蔦や三又槍で狙い始めた。

 女神像を少しずつハンナやローシャから目を背けさせるように移動していくと、その通りに動いてくれた。ついに、女神像は完全にローシャとハンナから背を向けた。


「デケェのお見舞いしてやるよ!!そやぁっ!!」

「起術…星羅を束ねし理に命じよう。暗黒には閃光を以て…そして立ち塞がる者には灼熱を以て滅せよ!!メルトプロミネンス!!」


 二人の攻撃は女神像の背中に命中し、背中の割れ目に生えていた植物は全て消え去った。更にサソリの体は小さな虫となって飛んでいき、女神像は地面に落ちた。


「ふぅ…なんとか、俺の魔力が切れる前に終わってくれたな…」


 カインの言葉にほっと胸を撫で下ろすと、私は体の力が抜けて、てその場にしゃがみ込んだ。足元を見ると、自分の血で地面が赤く染まっていた。


「アリンちゃん。今、その傷回復するね。カインほどすぐには出来ないと思うけど…」

「そっか…あいつに夢中で腕の事忘れてたよ。」


 ハンナが傷口に触れるとだんだんその傷は浅くなって、痛みは引いていく。虚脱感も無くなっていった。しばらくして、完全に傷が回復した。


「はい。これで大丈夫かな?」

「ありがとう、ハンナ。これでまた戦えるよ。」


ハンナはどこか恥ずかしそうに、そして何より嬉しそうにニコッと笑った。


 

 私達は祠の前に戻って窪みに金の飾りをはめ込むと、それはぴったり入った。そして、大きな岩の扉は消滅した。

 祠の中では蛇の頭を8つ持つ竜が待ち構えているのが見える。それは日出国のお伽噺で、八岐大蛇ヤマタノオロチと呼ばれている邪の式神の一体に似ていた。


「ヒュドラか…最上位クラスの召喚獣だからかなり強いぞ。」


 カインがそう言うようにオロチ…もといヒュドラは全ての頭を覚醒させると、尾を叩きつけるだけで祠の柱を破壊して見せた。

私達は武器を構えて、十六の眼光でこちらを射殺さんとするヒュドラを見据えた。

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