第11話 召喚獣ヒュドラ
ヒュドラは、自らの牙から私達に毒液を飛ばしてきた。
「イヴェルミラー!」
カインが私達の方に飛んできた毒液を魔術で跳ね返す。
「地面に落ちたやつを踏んだら一生歩けなくなるわよ。気を付けて。」
エリーゼの忠告を聞いて、黄色くドロッとした毒液をまたぐようにしてヒュドラの首に斬りかかる。
「
ヒュドラの首は案外呆気なく落ちたが、すぐに吹き出した血が首の形になり再生した。そして私を睨み付けると噛みつこうとしてきた。流石に8つも首があると、攻撃は素早くてかわすのがやっとだ。
私は思い付いた次の攻撃をしかける。
「普通に斬ってダメなら、血を凍らせれば……」
私は今度は剣に氷を纏わせて、ヒュドラが攻撃を外した隙を見計らって斬りかかった。
「
断面は霜に覆われて血は出てこない。今度は頭が再生する様子は無かった。だが、すぐ横から一つの頭が襲ってきた。
「これでも食らいやがれっ!!」
ローシャが炎の矢でその頭を撃ち抜くと、その頭も動かなくなった。どうやら、火や氷の属性に弱いようだ。
「成る程…アリンとローシャの攻撃以外はあいつの首を落とせないようね。
私は襲ってくる首を落とすから、あんたとローシャで再生する首の数を減らして!
カインはアリンにミラードームを付与して毒霧を防いであげて!」
「じゃあ、僕はタイミングを見て攻撃出来そうならやってみます。」
私は皆を信じてもう一度前に出た。再び間合いに入ると、ヒュドラは激しく、でもこちらを先読みするように首をくねらせて攻撃をしかけてきた。
「グラン・ギニョル!!」
エリーゼは沢山の剣を操って、一気に3つの首を切り払った。
私も一番近くの首、そのまた近くの首を、冷気を帯びた剣で切り裂いた。
その間にローシャも素早く矢を放ち、再生してきた3つの首を無力化した。
「残り一本よ!!」
私がそう言ったのも束の間、ヒュドラは少し小さな翼で飛び上がると、紫色の霧に包まれた。霧を全体に拡散させると、ヒュドラは全く違った姿に変化した。
変身したヒュドラはヒレのような翼を持ち、空中に浮遊して長い首を私達に向けている。頭は一つだけになり、首を切った時の痕跡は見当たらない。まるで生まれ変わったかのようだ。
「クソッ…俺はこんな話聞いてないぞ……」
ヒュドラは口に黒いオーラを宿し首をS字に曲げると、素早く首を伸ばして噛みつく。咄嗟に避けるが、標的は私ではなかった。
「くううぅぅっ!!!」
ヒュドラはハンナに噛みつこうとしたが、それをカインが障壁を張って防いでいる。
「ゴルゴンの盾よ…我が血を糧とし、今こそ顕現せよ!アイズオブメデューサ!!!」
カインがそう唱えると障壁の色は紫色に変わり、ヒュドラは口に貯めたエネルギーの逆流によって落下した。
「はあっ……大丈夫か、ハンナ?」
カインは地面に手をついて、肩で息をしている。
「君こそ大丈夫なの!?」
「あぁ…でも…この後は手助け出来そうに無いな。今のうちに出来るだけあいつにダメージを与えてくれ。」
カイン以外の全員が、落ちたヒュドラに総攻撃を始めた。
私は再び浮かぼうとするヒュドラの首に攻撃をするが、首は非常に硬く剣は通らない。その隙に、ヒュドラは再び剣が届かない位置に飛んでいった。
今度は私に目掛けて噛み付く…最早撃つという表現が正しいほどその攻撃はあまりに速い。間一髪でかわしたが、もう少し反応が遅ければ死んでいてもおかしくない。
更に、鞭のような尾を巧みに操ってエリーゼに攻撃を仕掛けた。複数の剣を使って巧みに受け流したが、防御に使った剣はガラスのように砕けて消えてしまった。
正直自分の体力の限界も近いので、これ以上長引かせたくはない。
「アリンちゃん、エリーゼさん!!避けて!!」
ハンナの声が聞こえたので飛び退くと、彼女はヒュドラの頭に星魔法を放った。閃光と熱に大きく怯み、ヒュドラは再び落ちてきた。
ハンナが作ったチャンス…今度は無駄にしない。腹に狙いを定めると、私は柄に手をやって走る。
「秘奥義…
二刀同時に抜刀し、瞬時のうちにヒュドラに斬りかかる。刃が深くまで入って、抜けていく手応えがあった。
ヒュドラは傷口から血を吹き出し、甲高く吠えた。そして力無く倒れると、黒いオーラを散らして完全に消えた。そして、祠の中の岩の扉が開いた。
「終わった…これで要石を回収できる。」
私はホッとしてしゃがみこんだ。
「アリン、回復のポーション持ってるだろ?俺にくれるか?」
カインが私を呼んだ。私は彼の近くに歩くと、ポーションの瓶をカインの額に当てた。
「仕方ないわね…はい、これ。後でこの分のお金返してよ。」
カインはポーションを飲むと、ゆっくりと立ち上がった。それを見て全員が無事で終える事が出来たのは良かったと、一安心した。
「さ、早く要石を回収して兵団本部に戻りましょ。」
一足先にエリーゼは空いた扉の先に歩いて行った。私達もそれに付いていく。岩の扉の先の祭壇の上に要石は置かれていた。それは一見何の変哲も無い石板の欠片だった。エリーゼがそれを拾い上げたが、特段重そうにも見えない。
試練を終え、昨日泊まった宿に着いた頃にはすっかり夜になっていた。私は戦っている時から感じていた息切れとだるさが収まらず、ベッドでうずくまっていた。もう少し戦闘が長引けば、多分私は戦えなくなっていただろう。
「ねぇ、さっきから顔色良くないけど大丈夫?」
ハンナが話しかけてきた。ベッドの横にちょこんと座ると、彼女は私の頬に手を当てた。彼女の手はとても温かかった。
「君の体って、どうしてこんなに冷たいの?」
「大丈夫よ。種族の関係でちょっと平熱が低いだけ。」
それを聞くと彼女は私のベッドに入ってきた。
「くっつくのは恥ずかしいけど…これで温かいかな?」
「うん、温かいよ。ありがとう、ハンナ。」
しばらくそうしていると、宵の口だというのにハンナは先に寝てしまった。 彼女にどんな気持ちを抱かれているか推し量る事は容易ではない。
これがうわべだけの言動とはとても思えないが、彼女なりの友人としての好意か、孤独から来る依存なのか、はたまたそれらを超えた何かなのかは分からない。
いずれにしても分かる事は、私が彼女と共に生きていける時間は限られているという事だ。今の私にはそれがたまらなく辛い。
彼女とこのまま仲良くするべきなのか、それとも…多少残酷ではあるが…彼女と距離を取って別れの悲しみを取り除いてやるべきなのか。私にとってどっちが正しいのかはいくら考えても分からなかった。
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