第23話 終焉

 3月10日

 あれから、僕と茜さんの距離はみるみる縮まっていった。一緒に帰ったりもした。

 本当に、友達になれたなあと思う。

 僕が茜さんのこと好き疑惑については、一切触れることはなかった。

 冬休みに入っても、会いはしないけれど、スマホでたくさんやり取りをした。

 始まった3学期。今日は、事故が起こる日。隣には茜さんがいる。今から家に帰るところだ。

 ちょっとのど渇いたから、自販機よるね。そういって事故がある道を避ける予定だ。

「いやー慧斗君。もうすぐ卒業式だねえ」

「そうだね」

「4月からは華の女子高生だよー」

「そうだね」

「慧斗君? どうしたの?」

 茜さんが僕の顔を覗き込んでくる。近い近い。

「何が?」

「さっきから、そうだねってしか言ってないから」

「そう?」

「そうだよ」

「それはごめん」

「別にいいよ」

 時間を見計らって、

「あーごめん。ちょっとのど渇いたから自販機よっていい?」

「うん、いいよー」

 近くにあった自販機に行く。するとそこには先客がいた。

「あ、颯……」

「おう、本田、偶然だな。……ってお前また石橋と帰ってんのかよ」

「それは」

 なにやらお怒りモードに突入した様子の大宮君。

「俺、もう石橋とは一緒に帰んなっていたはずだぞ」

「え、茜さん、そうなの?」

「あー。2人とも、ごめんねー」

「なんだよ。彼氏いんの他の男と一緒かよ」

「ほんとにごめんって」

「つうか石橋。彼氏持ちの女と一緒に帰るってどういう神経してんだよ」

「あああごめんなさい。でもあの、大宮君って、意外とそういうの気にするタイプなんだね」

「あ゛?」

 まずい、場を収めるのと話題提供、そして時間稼ぎも兼ねた発言をしたつもりだったが、完全に選択を誤ってしまった。

「まあまあ颯、落ち着いて。これからはこういうの、無いようにするから」

「……そうかよ。じゃあお前今から俺と帰れ。行くぞ、本田」

「え、あ、ちょ、ごめんね慧斗君!」

 大宮君に連れ去られる本田さんをぼんやり見つめる僕。

 って、そうじゃないだろ!

「待って!」

「なんだよ」

 転倒するダンプが後ろから近づいてくる。このまま、ダンプが通り過ぎるまでの時間を稼げばいい。ただそれだけのはずなのに、言葉が出ない。

「いうことないなら引き留めんな」

「あ……」

 歩き出した2人とダンプがもうすぐ重なる。2人がいる場所は事故が起こる場所。

 ここまで来たのに、僕は茜さんを救えないのか? そんなの……、

「させるかあああ!」

 僕は走った。自分でも驚くほどのスピードで。周りの人が僕を見ているのがわかる。

 ダンプが倒れる、すんでのとこで茜さんとついでに大宮君を突き飛ばしその勢いで僕も転がっていき、後ろでダンプが横転する。その時、僕の世界が止まった。

「なんだよ……」

「はいはい、石橋慧斗君、久しぶりだな、そしてお疲れさま」

「は……?」

「おや、私のことをお忘れかい? 悲しいなあ」

「な……」

「ほら、君の時間を戻した者だ」

「あ!」

「思い出したようで何よりだ」

 僕の前に突然現れて時間を戻したあいつ。名前は聞いていなかったはずだ。

「さて、私としたことが一つ大切なことを言い忘れていてね」

「何」

「うーん。聞く?」

「言えよ。こんな状況でお前に付き合ってられないよ」

「そうか……」

 少し悲しそうに目を伏せる者。

「心して聞け。お前、本田茜と石橋慧斗の命、どっちをとる?」

「は?」

「前に聞いただろ? 本来あるべき歴史の流れを変えてでも、彼女のことを守りたいかって」

 そういわれてみればそんなことを言われた気がする。

「死ぬはずだった命が助かるってことは、代わりに亡くなる命があってもおかしくないだろ?」

「そういうことかよ」

「話が早くて助かる。しかし勘違いの無いよう私からも説明させてもらう。お前がここで彼女を守りたいといえば、お前が死ぬ。死にたくないといえば、本来と同じく、彼女が死ぬ」

「ああ、勘違いなんかしてないよ」

「ならいい。お前、どっちを選ぶ?」

「僕が何のためにここに来たと思ってるんだよ」

「いやそうなんだが。お前、この1年でいろいろ友達出来て、それなりに楽しかっただろ」

「そりゃまあ」

「生きたくないのか?」

「……」

「それに、お前が死んで悲しむ人はたくさんいるぞ」

「それは茜さんだって同じだし、僕より多いと思う」

「それでも、だ。お前の親は悲しむな。あと……足立奏汰。あいつめっちゃ泣くぞ?」

「奏汰……」

「お前が散々世話になったやつだろ? こんな終わり方でいいのかよ?」

「……」

「ここで気持ちが揺らぐなら、本来の流れに沿うのを勧めるな。まあ、少し考えろ。数分なら待ってやる」

 親や、奏汰を悲しませるのはとても心が痛いし、僕だって友達と一緒にもっと反したいと思う。でも、茜さんが死んでそれができるか? 何もなくても僕はあんなになってしまったんだ、こんなにアクションおこして助けられなかったら、それこそ終わりなきがする。

 でも、このまま死ぬのも……。

 そう思い、僕はスクールバッグから神とシャーペンを取り出す。

『お母さん、お父さんへ。

 親不孝な息子でごめんね。でも許してほしいんだ。

 奏汰へ

 今までありがとう。こんなことになって悪い。同課僕を忘れないでほしい

 石橋慧斗』

「おい、お前マジか」

「マジだ。さあ、いつでもこい」

「……わかった。私が魔法を解けば、お前はその瞬間ひかれる。いくぞ」

「ああ」

 瞬間、世界が動き出す。

 目の前にダンプが迫って……。

「慧斗君!」

 茜さんの悲鳴を聞きながら、僕は地面に倒れる。

 そこで、僕の人生は幕を閉じた。

「おつかれ、石橋慧斗」

 最後に聞いたのは、名前も知らないあいつの声だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女のことを救えたなら 月環 時雨 @icemattya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ