第22話 伝わる

「帰りながら話さない?」

「そうだね。うん、そうしよう」

 放課後、僕が提案をすると、茜さんはあっさりそれを承諾した。

「そういえば、茜さんの家の方面ってこっちでよかった?」

「うん。慧斗君と大体同じだから」

「そう……」

 気まずい沈黙。

「あ、あのさ、茜さん」

「何?」

「僕も話したいことがあって……」

「え」

「え?」

「あ、ごめん。でも待って。私が先に話したい。誘ったの私だし」

「あ、うん、そうだね。ごめん」

「いや」

 なんだろう、この何とも言えない空気は。一応会話にはなっているんだけど、ちょっとぎこちないというか。

「慧斗君、あのね」

「あ、はい」

「私、慧斗君に謝らないといけない」

「え?」

「前に廊下で言ったでしょ。慧斗君は十分私の役に立ってくれたから、もう手伝ってくれなくていいよ、って」

「ああ、うん。言ってたね」

「あの、それ、確かにその時の本心だったんだけど。というかまあ、今も思ってるといえば思ってるけど」

「うん……」

「あ、別にそう意味じゃなくて!」

 手伝ってくれて助かったって意味だから、と本田さんが慌てる。

「でも、そのあとに思ったの。私の言い方、ちょっとなかったなって」

「うん」

「あの時、慧斗君を少し迷惑に思ってたのは事実。でも、嫌いになったってわけじゃないから。ほんとにごめん」

 僕の目を見て謝ってくる茜さん。

「別にいいんだけどさ、僕はそれで結構傷ついたっていうか……。あの、聞きたいんだけど、茜さんは、僕を利用したの?」

「う。その、否定は、できないかな」

「そう……」

「ごめん」

「いや、大丈夫。まあ、僕だって茜さんのこと嫌いになってないし」

「ほんと?」

「え、うん」

「じゃあもし、こんなにひどいことした私が、改めて友達になってください! って頼んだら、いいよって言ってくれる?」

「都合いいこと言うなよとは思うけど、いいよって言うんじゃないかな、多分」

「そっか」

「うん」

 短い沈黙。

「慧斗君」

「はい」

「友達に、なってくれる?」

「やだ」

「……」

「うそ冗談。いいよ。よろしくね」

「うん」

「でも、僕なんかと仲良くしていいの? 大宮君嫌がるんじゃない?」

「それは大丈夫。」

「じゃあ、僕が茜さんに一緒に帰ろうって誘ってもいいの?」

「もちろん。友達だから。恋愛感情はないよ、私にはね」

「え、それって」

「うん、慧斗君の気持ち、薄々感じてた。分かってて、ああいうことした。ごめん」

「いや、待って、普通に恥ずかしいんだけど」

「ふふ。じゃあ、私こっちだから。またね」

「あ、うん。また」

 ひらりとスカートを翻して去っていく茜さんを見つめる僕の顔は、真っ赤に染まっていた。

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