第4話 兵士と幼子(鎧狩)

「お兄ちゃん何してるの?」

「…見張り」


 お前はどうなんだと顔をあげる。


「薪探し」


 あんまり良いのないねー、と、幼子は兵士の隣に座る。休憩らしい。


 彼らは交易のため南方の村へ向かう途中だった。兵士はと言うと、小高く盛り上がった土手で荷物番をしていた。他の数人は寝床や夕餉の支度を進めている。

 中流まで下ると、随分と川幅が広く感じる。大量の水が渦を巻いて勢いよく流れていた。

 河川敷には、積まれたままの木材や、くずれた桟橋、船止めの残骸がひっそりと草花に埋もれている。数本ずつまばらに生えている樹木に混じって、桜の大木が一本だけ、堂々とそびえ立っていた。

 咲き始めの花がさらさらと散る様を眺めていると、きゅるる…と高い音が鳴る。

 幼子が顔を赤くして腹を押さえていた。

 兵士は腰から下げた袋をまさぐり、干し肉を取り出すと、幼子の手に握らせる。


 「やる」


 幼子はさらに顔を赤らめた。


 「だ…だぁーいじょうぶだよ!ぜんぜん…ちょっとしかおなかすいてないもん!!」


 実に見え透いた嘘だ。

 しかし、幼子が遠慮するのも仕方の無いことだ。働き手としては未熟な自分が食べるのには抵抗があるのだろう。幼子だからと怠けずによく大人の手伝いをしているので、そこまで気にしなくてもいいと思うのだが。


 「そろそろ食わねばこれも悪くなるし、俺は今腹一杯でな。一口も入らん」

「……」


 幼子はまだ渋っているようだった。烏にでもくれてやるかな、と念押しすると、やっと受け取った。

 塩を置いてきたようなので、兵士は小筒を傾けて手のひらに空ける。粗めの透明な粉がざらりと流れ出た。

 幼子は自分の水筒を開き、干し肉を水に浸した。塩をつけて口に放り込み、唾液と肉と噛み砕き混ぜながら柔らかくして、こくん、こくんと小さく喉を上下させながら飲み込んだ。

 あまり美味しくはないだろうが、腹は膨れるだろう。


 「お前一人が飯を食ったからと言って、備蓄が底を突く訳では無い。それとも……本当に遠慮するほどの大食いなのか?」


 にやりと意地悪く笑ってやると、何か言いたげにもごもごと口を動かしながら睨まれた。まだ肉が中に残っていて、喋れないらしかった。

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