32 パウルの村 3
「帰ってくれっ!わしの村はお前達の言いなりにはならん!!」
パウルが怒鳴るように言うと、騎士はわざとらしく肩をすくめた。
「そうですか…それはそれは残念でたまりませんねぇ。ですが、生憎私も" あのお方 "の命令ですので。
お前の村は今日で終わりだ。死ぬ準備は出来ているんだろうな」
口調が変わった途端、殺気に満ちた鋭い視線がパウルを射ぬく。騎士が指を鳴らすと霧が一段と濃くなって、すぐに姿は見えなくなった。
セオは襟のホックを外して首元にあるボタンを押した。セバスお手製・通信機能付き制御装置だ。
「ここにいる者も、いない者もよく聞け。
村の外で待機しているセバス、アンラとマンユは敵を見つけ次第殺せ。一匹たりとも逃すことは許さない。
裏にいるムタとバステトは消えた騎士を追え。ただし合図があるまで攻撃はするなよ。あと
アフロディーテは村人を食糧庫に集めて
あまり俺を待たせないでくれよ」
短く返事を返すと同時に隣にいたシンが消える。そのあまりの速さにレオンハートとファルクが驚いて見るが、セオはその視線に気付かない。何故ならセオは右下に視線を移し、そこには見上げるイシュタルの目があったからだ。
「セオ様、私もなにかお役に立てることはありませんか?」
イシュタルはシンに貰った剣に手を触れた。もしかするとこの剣を振るうことになるかもしれない。そう思うと恐怖からか小さく震え、イシュタルは咄嗟に手を背に隠した。
「うむ…。そうだな、
イシュタルがそこまで俺の力になりたいなら、おつかいを頼んでも良いだろうか?
村の裏手にバステトとムタがいるから、ムタにこう言うんだ。
【カランコエを胸に刻め】と。
なに、言えば分かるさ。これは俺とムタの秘密の暗号だ。できるか?」
「分かりましたっ!伝えに行ってきます!」
「さすがだ、イシュタル。その後は危ないかもしれないから、俺が迎えに行くまでムタ達と一緒にいるんだぞ」
セオは、これなら出来ると自信満々なイシュタルの頭を撫でると移動魔法を発動させる。イシュタルの足元が明るくなって魔法陣が浮かぶと、一瞬にして姿が消えた。
入れ替わるようにアフロディーテが現れてセオの前で跪く。
「ご苦労だったな、アフロディーテ。
俺達の力を見せつける良い機会だ、任せたぞ」
「はぁ~い。セオ様の期待に添えるよう、このアフロディーテ尽力いたしますわぁ♪」
立ち上がったアフロディーテが、未だ濃い霧の奥を見つめて舌舐めずりをした。その表情はどこか色っぽくて、まるで恋人でも待ちわびているような顔であった。
すると霧の中にがたいのいい男が見えたと同時に、ぞろぞろと盗賊のような風貌の人間が村へと入ってくる。
「レオンハート様お下がりください。敵はざっと30人程でしょうか…いや、村の回りにも気配を感じます。セオ殿、自分もアフロディーテ殿に加勢いたしま…なっ!セオ殿!」
ファルクが剣を抜こうとした瞬間、意図も簡単にセオに制止されてしまった。
「ファルク、気持ちはありがたい。だが、お前がいけば間違って殺されてしまうかもしれないぞ。アフロディーテなら黙って見ておけば大丈夫だ。むしろ敵が少なすぎてあっという間に終わってしまうかもな。
レオンハートも手出し無用だ」
レオンハートが頷いて、ファルクが悔しそうに自身の剣から手を下ろす。
「うふふ♪少しは楽しめるかしらぁ~ねぇ?
あなた達、親玉さんは誰ですの?」
「すげぇ別嬪さんじゃねぇーか 。
くくくっ 好きにしていいって言われたが、まさかこんなオマケがついてるなんてな」
「リーダー、俺達にもちゃーんと分けてくだせぇよ!」
男達がゲラゲラと下品な笑い声をあげる。中には魔法が使える者もいるようで、近くの建物に火がついた。バチバチと音を出して、勢いのある炎に変わる。真っ黒い煙が空を覆うように立ち上った。
─ ″
だが燃えているのは植物の蔓のようで、建物自体は無傷であった。桃色の美しい花がいたるところに咲いては炭へと消えていく。
「あらあら、あらあら悲しいわ…
私の可愛い花々をこんなに燃やしてしまうなんて…報復しなきゃ、しなくちゃねぇ。
さぁ、皆さん御食事の時間ですわよ!!」
その瞬間、男達は足の下でなにかが蠢く気配を感じる。ひび割れた地面の隙間から見えたのは、太い植物の根のようであった。
「くそっ!なんだこれはっ!!
離せ、っく! お前ら どうにかしろ!!」
頭の男が叫ぶが、誰一人として身動きがとれる状況ではない。何故なら巻き付く根には無数の棘があり、動くと肉の奥へと食い込み裂ける。リーダーであろう男はナイフで根を斬り逃れ、近くにいた仲間を助けた。
「はぁ、はあ、 大丈夫か!?くそっ!何て技なんだ、こんなの聞いてねぇぞ!
…お、おい、どうした!?しっかりしろ!」
が、男は干からびたように皮膚が固くなり、息をしていなかった。足元を蠢く根は、男の養分を吸って美しい花を咲かせていた。
「これはこれは、美しいですわねぇ。人間ごとき汚れた血にも、こんな花を咲かせることが出来るなんて…正直ビックリですわ。
ねぇ、貴方は一体何色のお花なんでしょうねぇ?」
回りに目を向けると仲間達が次々と倒れては、美しい花を咲かせていた。瞬間、男はまるで花畑の真ん中に取り残されたような感覚であった。
息継ぎなど出来そうにない。目を見開いた先に見えたのは、この世で一番醜い笑顔を浮かべた
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