28 再会

「なんなんだテメェ!離せ、は、離せよ!!くそっ!!」


「聞こえなかったか?もう一度言うぞ。セオ様の気が変わらないうちに、失せろ」


巨漢は無理矢理に腕を抜こうとするが、全くびくともしない。悔しそうに頷いた巨漢を見てシンが緩めれば、逃げるように去っていった。


「おい青年、大丈夫か?」


「すまない、助かったよ。礼を言うが、その…貴殿らは?」


「俺達は、

「あらあらぁ~、おじい様ぁ! お身体大丈夫ですの? 」


アフロディーテがシンと青年を遮って、座り込んだ老夫へ駆け寄った。


「ああ、このとおりじゃ。レオンハート殿もお嬢さんもありがとう、助かったわい。

なんじゃ、アンタもしかして……

イシュタルか?ああ、イシュタルじゃないか!! 良かった!お前は無事だったんじゃな!」


「 も、もしや、“ パウル ”様っ!ずっと村に来ないから心配して…ご無事だったのですね!」


再会を喜び抱き合う二人を全員が唖然として見つめる。イシュタルは両目に涙を浮かべていて、パウルは娘をあやすように泣きじゃくる背中をさすっていた。


「なんだ、貴殿らはパウル殿の知り合いであったか。僕は “ レオンハート ” だ。重ねて言うが、先程は本当に助かった。」


「気にしないでくれ、俺はセオ。そして俺の優秀な仲間達だ。

それで、二人は何やら事情がありそうだが、それを聞いても?」


セオは仲間の紹介を一通り終えて二人に聞くと、パウルが沈んだ表情を浮かべた。


「これはひと月前の話じゃ。イシュタルには辛かろうが、お前さんが住んでいた村が大火事になってな。

わしも村の人間を連れて急いで助けに行ったんじゃが、誰一人息をしている者はおらなんだ。

夜が明けてわしらが埋葬してると騎士の男が現れて言ったんじゃよ。


『これはこれは、良いところに。この村は見ての通り駄目になってしまった。だから今よりお前たちの村が代わって“魔法石マジックストーン”を用意しろ。一週間後までに三千石だ、簡単だろう?』


断ったが騎士は聞かずにどこかへ消えていった。そのときはわしらも深く受け止めず、倉庫で焼けずに残っていた僅かな魔法石マジックストーンを村へ持って帰ったんじゃ。

それから一週間後の朝に騎士の男がやって来たから、魔法石マジックストーンを渡して、うちの村で採掘は出来ないと伝えたよ。なんせ若い者は少ないし、老人ばかりじゃ。騎士は何も言わずに帰ったから、わしらも諦めてくれたのだと喜んでいたんじゃが…


そしてある夜、村の食糧庫が何者かに燃やされた。村人達が飢えないようにと、毎年少しずつ貯蔵していた穀物全てが駄目じゃったよ。全員が悲しみと途方に暮れていると、騎士がぞろぞろと盗賊を連れてやって来て、


『あと二十日待ってやるからあわせて六千石用意しろ。出来なければあの村のように皆殺しにする。 女子供も容赦しない』


と言ったんじゃ。わしは急いで助けを求めてギルド会館に来たが、なにせ金も売る物もない老人の声などに誰も耳を傾けてなんてくれなんだ。

座り込んでいたわしに声をかけてくれたのがレオンハート殿じゃ。この事を話すと協力すると言ってくれた…じゃが見た通りガラの悪い奴と言い争いになってしまっての」


パウルは溜め息を吐いて一層肩を落とした。

聞き終わったセオが何かを訴えるようにセバスを見る。一度は小さく首を横に振ったセバスだったが、セオの視線に諦めたのか条件を出した。


「では、仮に…私達がパウル殿の村を助けたとして、その報酬はどのぐらいでしょうか?」


「わしに払える金なんてもう残されておらんのだ。食糧庫が燃やされてから村人も少ない貯金を切り崩して生活しておるんでの…

正直言って、きっとアンタ達が納得するような額は出せんじゃろうな…すまん」


パウルが頭を下げるが、セバスは話にならないと両手を上げて首を傾げた。イシュタルも一緒になって嘆願するが、セオは腕を組んで難しい顔をパウルに向けている。

諦めの雰囲気が漂う中、アフロディーテがレオンハートの前に歩み寄る。そして人形のように美しく微笑み、肩から腕に人差し指をゆっくりと滑らせた。


「あらあら、レオンハートさんでしたっけぇ。貴方はいくら持っておられるのかしらぁねぇ?」


答えようとしたレオンハートの口をその指で制止して、まるで秘密話をするように顔を近づけ囁いた。


「私、知ってるのよ。貴方が王宮を出入りしてることぐらい。ふふっ、さっき見えてしまったの。緩んだその首元に、王族である証の刺青がねぇ。本当に良かったわねぇ、バレるのが私で♪

…だってぇ、運良く私達は資金がなくてセオ様もギルドを申請できずお困りになっておられるもの。

私の言いたいこと、もう分かったかしら?」


アフロディーテの笑みが挑発的なものに変わる。対してレオンハートの顔には静かに冷や汗が浮かんでいた。

話を聞くかぎり、今の状況ではアフロディーテ以外知らないのだろう。だがこれを断れば最悪、この場で王族であることを暴露されるかもしれない。この者達が信用に足るか否か分からない今、これだけは知られるわけにはいかない。

レオンハートはアフロディーテの手を、やや乱暴に払って皆に聞こえるように言った。


「……わかった、ギルド申請額は僕が約束しよう。そして、貴殿達がパウル殿の村を見事救えたなら、追加報酬は王に掛け合う。

だが、こちらもひとつ条件をつける。それは僕も同行させてもらう、貴殿らが信用に値するかは僕自身が見て決めるからな。

正直、セオ殿を頭ごなしに疑っている訳ではないが、信用できないのもまた事実だ」


「うむ。賢明な判断だ、いいだろう。

では改めてパウル、レオンハートよろしく頼むぞ。あと報酬は必ず“500ニア”以上が条件だ。

で、その 二十日後 とはいつだ?」


「それは…明日じゃ」


「はぁ、はぁ、そりゃー早くて助かるじゃん

。俺ちん何日もこいつらのお守りなんてマジでムリなんだけど!」


走り回って迷子になったアンラとマンユを両脇に抱えて、息の乱れたムタが言った。バステトは終始興味無さげに尻尾のグルーミングをしながら聞いている。


「よし!まずはパウルの村に行って地形を把握しよう、誤って村を破壊してはいけないからな。

久しぶりに楽しめそうだ、なぁイシュタル」


楽しそうに言ったセオに、パウルとレオンハートは話す相手を間違えたかと少しばかり後悔をする。

そんな光景を見てシンとセバスがバレないように溜め息をついたのは言うまでもない。


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