ラスファリタ王国ー パウルの村 ー
27 ギルド申請
◇◇◇
そんなこんなで二週間、ラスファリタ王国に行ってからちょうど一ヶ月が経とうとしていた。この頃にはイシュタルの剣術も前よりかはマシになっていて、剣先を斬り落とさずに途中で止めることが出来るまでに成長していた。それにシンが情報収集に出ているときはムタとバステトに体術を教わっていたため、着実に筋力も増え体力もついた。
朝の稽古が終わり朝食をとったイシュタルは、部屋で支度を始める。
なぜかと言うと、昨日の夕食時にセオは全員を集めてこう言った。
「こうも毎日部屋に缶詰めでは、そこの
『 デワナイカー!デワナイカー! 』
セオがフォークの先で鳥籠の小鳥を指すと、馬鹿にしたように復唱している。このインコは情報収集に外へ出たアンラとマンユが人間の商人から貰ったらしい。最初は可愛がっていた二人もインコが四六時中喋るため、煩くて眠れなくなり結局現時点、広間へ置かれているのだ。
「この一ヶ月、情報収集を行ったが "イシュタルを狙う聖騎士" のこれと言った情報は得られなかった。だからある程度情報を集めるまでは外に出るのは避けた方がいいのだろうが……正直、飽きた」
そしてセオは机を両手で叩いて勢いよく立ち上がった。
「そこでだ、明日からは全員でラスファリタ王国に行く。勿論イシュタルは危険かもしれないが連れていく。 大丈夫だ、俺達がちゃんとお前を護ると約束しよう。…手段は選ばないがな」
と、いうことで今日は全員でラスファリタ王国に行くことになったというわけだ。支度をするイシュタルにセレネは申し訳なさそうに言う。
「久しぶりの外出ですね。お見送りしたいのですが城の警備で…もうしばらくすればセオ様が迎えに来られるみたいですので、お部屋でお待ちください」
「いいえ、気にしないでください!セレネさんこそお気を付けて、頑張ってくださいね」
セレネが部屋を出ていってから、そう経たない間にセオがイシュタルを迎えに来る。
「準備出来たようだな。では行こうか」
「おぅ!兄ちゃんに嬢ちゃん、久しぶりだな!って、後ろはお仲間さんかい?身なりがいいから貴族の集団かと思ったぜ」
「アンタは確か…そうだ、前に来たときの酒屋の店主か?」
「そうだよ!あんまりに何も知らねぇから、どうなっちまったかと思って心配してたんだよ!元気そうでなにより、安心したぜ」
この豪快に笑う男は前回ラスファリタ王国に来たときに、国について色々と教えてくれた男だ。だが、その馴れ馴れしさにセオとイシュタル以外が冷ややかな、というか警戒心丸出しの視線を向けている。
「あの時は助かった、礼を言うよ。今日は ギルドとやらに入ろうと思って仲間達を連れて来たんだ」
セオが全員を紹介し終わると、男は自分の番だと言わんばかりに胸を叩いて言った。
「俺の名は" ロイズ "!酒屋の店主でもあるが、それだけじゃねぇぞ 。人は皆、俺のことをこうとも呼ぶ……" ティザー・ラビット "」
「なんだ、それは?」
なんとも、セオ以外無反応なリアクションに男はよほどショックを受けたのだろう、大袈裟に肩を落とした。
「くぅー!冷てぇーな…
ただの情報屋だよ、情報屋! もし、なんか知りてぇ情報があったら言ってくれ!報酬はきっちり貰うが絶対嘘は掴ませねぇし、損はさせねぇからよ!
で、兄ちゃん達ギルドに入るんだよな?
まぁ、どっちにせよあそこの建物に行かなきゃ手続きもなんも出来ねぇぞ」
ロイズの指差した方へと目を向けると、白い大きな建物があった。
ロイズ曰く、その"ギルド会館"と呼ばれる建物でギルドの入隊や、申請及び更新が行えるらしい。セオ達は礼を言ってロイズと別れると教えられた方向へと向かう。
「うわぁー!人がいっぱいだね、マンユ!」
「ホントだー!って、アンラよだれ垂れてるよ!!」
建物にはたくさんの人が出入りしていて、格好も様々であった。驚くほどに軽装な者もいれば、全身鎧を着込んだ者もいる。
入り口にはギルド会館と書かれていて、まるで首輪を外された獣のように、館内をアンラとマンユが走り回る。子供と言うこともあって、怒られている様子はなかったがその様子に受付嬢達は苦笑いを浮かべていた。
「セオ様、二人はもう置いて行きましょう。待っていても飽きるまで止めませんから」
「そうだな、セバス。すまないが、俺たちはギルドとやらに入りたくて来たのだが」
セオが近くの受付に座っていた女性に声をかけると、笑顔で机の下から書類の束を取り出した。
「 "ご入会" ですね では何名様かでまとめて入られますか?」
「ああ。九人で頼む」
「…お客様、恐れ入りますが加入パーティーは最大五名までとなっていますので、それ以上の人数となると規則により、勧誘しているギルドはございません。
もし皆様全員で、ということでしたら新たにギルドを立ち上げて登録される方が早いかと思われます。どうなさいますか?」
「セオ様、そちらの方がいいでしょう。気兼ねなくできますし。
して、ギルドを登録するにはどうすれば?まさか登録料なんて話は…」
セバスが眼鏡を上げながら、セオの代わりに答える。
「はい、登録料 " 500ニア "になります!通常は1000ニアなんですが、今は割り引きしてまして、」
「あっちゃー…終わったな 」
愛想よく話す女を遮るようにムタが呟いた。
何故ならここにいる誰一人としてこの国の金貨を持っていなかったのだから。
あのあとアンラとマンユを捕まえてギルド会館を出たセオ達一向は、広場の噴水に腰かけて作戦会議を始める。と、言ってもギルドに入らなければ金を得ることは出来ず、金がないからギルド登録できずと、もはや八方塞がりであった。
「ねぇ もうさ、そこらへんのヤツ殺さない?俺ちんそれが一番手っ取り早いと思うんだけどー で、持ち金全部奪っちまおうぜ。なぁバステト!」
「ムタもたまにはいいこと言うにゃ!あ、セオ様、アイツなんかどうにゃ?金もってそうにゃ~」
「…二人ともやめとけ。もしそれで国内指名手配にでもなってみろ、本末転倒だ」
シンが二人を止めるが、正直シン自身も他の考えが浮かばずであった。横目でセバスを見ると、目を閉じて顎に手をあてているが、全く喋ろうとしない。そして肝心のセオはイシュタルの膝を枕に寛いでいた。
要は誰一人解決策が見出だせていないのだ。
「おい、お前達!これはどういうことだ!!寄ってたかって見てみぬフリとは情けない…
お前達は報酬がなければ困っている者に手を差し伸べてやらないのか!!
やはりお前達は金でしか動けない、ただの人間のクズだっ!!」
「っ!なんだと、くそやろう!!黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!」
セオ達は何やら騒がしい方を見ると、青年が巨漢に胸ぐらを掴まれていた。どうやら青年が吹っ掛けた喧嘩らしく、周りの人間もヤジを飛ばしている。
「あらあら、あぁ~ら!!
セオ様、これは好機ですわぁ♪ あの青年をお助け下さい、私の勘がそう告げております。きっとよい方向に向かうかと」
「いいだろう、アフロディーテ。お前の勘はよく当たる、信じてやろう。
シン、助けてやれ」
「承知しました」
そう言うとシンはゆっくりと人混みへと近付いていく。アフロディーテは満面の笑みを浮かべて、それをバステトが気持ち悪そうに見ていた。
「離せっ!何度だって言ってやる!!
僕は、間違ったことなど 言って、ない!!命を金で量るな、困っているんだから助けてやればいいだろうっ!!」
「うるせぇんだよ!じゃあテメェが行けばいいだろうが。まぁどうせこんなひ弱じゃすぐ死ぬだろうがな!」
ゲラゲラと大声で笑う巨漢は、胸ぐらを掴んだまま空いた右手を振り上げた。襲いくる衝撃に目を瞑った青年は、不思議そうに目を開けた。
「そこまでだ、手を離せ。さもなくばお前の腕を俺がねじ切る羽目になる」
そこには巨漢の腕をねじ上げて止めたシンの姿であった。
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