22 捕縛
「それではムタ、アフロディーテ、本日の報告を」
セバスが言うと、膝まずいていた二人が立ち上がった。
「はぁい。私達がランダイとジルに化けて待っていると、商人のような男がやって来ましたわ。記憶通り
「王城に… あんな石ころを何に使うというのだ?」
セオが顎を手にのせてちらりとセバスを見るが、セバス分からず顔を横に振った。
「ごめんなさいねぇ~。私達も調べたのですがそこまではわかりませんでしたぁ。」
「よい、気にするな。お前達が無事ならばそれでいい」
「ありがとうございますぅ~!
お詫びと言ってはなんですが、私達セオ様にお土産がございますぅ♪ねぇ、ムタ?」
話を振られたムタは口角を上げて答えると、目の前の床に魔法陣が浮かび上がった。そして光と共に現れたのは、後ろ手に縛られ黒い布袋を被せられた男であった。
「なんだソレは?」
「きっとセオ様に気に入ってもらえると思って、連れてきたんだ。
おいセバス、大丈夫だって!“
なんだかんだ用意周到なムタにセバスが呆れて溜め息をついた。そしてムタとアフロディーテに言う。
「まったく…連れてきてしまったのは仕方がありませんが、次からは報告するようにお願いしますよ。」
「よいではないかセバス。ムタ、そいつの頭の布袋を外せ」
「じゃあいくよ… ご対面ー!!」
じゃじゃーん!! と後ろで音が鳴っていそうな勢いで、男の被されていた布袋がはずされる。男から動く気配はなく、俯いたままであった。ムタがはっと思い出したように指を鳴らすと、洗脳の術が解けたのか男が青い顔を上げて言う。
「なっ…なんなんだここは… なっ! おまえっ!!」
男はイシュタルの方を向いて立ち上がる。それをすかさずムタが足で制して男の自由を奪った。
「おい、誰が立っていいって言ったよ?…殺されたくなけりゃおとなしくしてろ」
「!!…“ カース様 “ 何故、あなたが…」
イシュタルは男の名前を口にすると隣で座るセオの背中へと隠れる。服を掴むイシュタルの手が震えているのを見て、すべてを理解したセオが言った。
「バステト、イシュタルに関係するものは見張っておけと言っていなかったか?いや、それ以上も言ったかもしれんな。だがしかし、これはどういうことだ。」
「にゃ!!でも、ウチに情報はにゃにも…」
クスクスと、アフロディーテのわざとらしい笑い声が響く。
「あ~ら、ごめんなさいねぇ、まさかこの子かしらぁ?邪魔だったから捕まえてしまったわぁ♪」
寝耳に水という様子で、バステトが慌てて弁解しようとしたがそれはアフロディーテによって遮られた。アフロディーテの手には籠が握られており、中にはバステトが放ったであろう見張りに出した使い魔が申し訳なさそうにこっちを見ている。バステトがアフロディーテから奪い取るようにして籠をとると、鍵を外して開けた。
「 ニャー…オ」
「チッ、お前は先に戻ってるにゃ。…おい、アフロディーテ!!ウチの邪魔するとはどーゆーつもりだにゃ!?」
「えぇ~?なんのことかしらぁ~?」
唇に人差し指を当ててとぼけるアフロディーテに、バステトが掴みかかろうとするとセオが止める。
「やめろ、二人とも。そんなに喧嘩をしたいなら外でやれ、今はこっちの方が優先だろう」
二人はセオからの強めの一喝を受けて、肩を落として静かになった。セオは疲れたように息を大きく吐くと、目の前でムタに踏まれているカースに言う。
「おい、あの
「し、知らねぇよ… 俺ぁ国まで運べと言われて運んでるだけだ」
ムタが足をどけると、カースは顔を上げる。踏まれた勢いで折れてしまったのか、鼻は歪に曲がり血が流れていた。
「金で雇われただけか。まぁ、用途はシュメール王国を調べればいいとして、お前は何故イシュタルに固執する?他に奴隷ならいくらでもいるだろう。」
「そいつは、お俺の、兄貴の特別な奴隷だからだよ!た、頼む、金ならいくらでも払うからそいつは返してくれ!」
「…やけに必死じゃありませんか。貴方の兄ならとっくの昔にセオ様によってこの世から消されているというのに」
まさかイシュタルにそこまで執着しているとは皆思っておらず、驚くセオに代わってセバスが言った。
カースは捲し立てるように続ける。
「わ、わかった!!じゃあ奴隷を交換するというのはどうだ!?今より美しい奴隷を …っ!がはっ!!」
「おい、聞かれてねぇーのに無駄に喋んなバーカ」
ムタの蹴りが腹部に入って、カースは声も出ず痛みに体を丸める。
「よせ、ムタ。カース、悪いがイシュタルは渡せない諦めろ。それともなにか、言えない理由でもあるのか?」
「そ、それは……言えない。言えば俺ぁ殺され、ちまう」
「そうか、ならば仕方ない…無理矢理喋ってもらわないとな、ムタ」
ムタは待ってましたと言わんばかりに、ニヤニヤと笑いながらカースの頭へと手を置いた。カースは断末魔の叫びのように、拒絶の言葉を口にする。だが願い虚しく叫んでいた口は、己の意思とは違う音を吐き出し始めた。
「あ る時“ 聖騎士 “がう ちに来て、お、置いていった 。この 事 は絶 対 に誰に も知られ てはいけない と。そのか わり 大金をく れる と」
「ほぅ…ではその“ 聖騎士 “様とやらの名前を聞かせてもらおうか、知っているのだろう?」
カースは目を見開き涙を流して首を横に振る。ムタの使うこの術は、口だけの自由が奪われるだけで視界や意識はしっかりとしているのだ。
「そ の聖 騎士 の名前は シュ メール 王 国所 属の “ “ 」
急にカースの口は動きを止めた。顔はぐりんと天を仰ぎ涙と涎が溢れ出して床に落ちる。
瞬間、喉元から“ 何か “が弾丸のように飛び出した。それは肉を掻き開くように、周囲に血を撒き散らしながらセオの方へと向かう。
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