15 帰宅
頬笑むセオが逆に恐ろしく感じたムタは、一瞬でイシュタルにかけていた技を全て解いた。
「あははは、魔王サマ早すぎ…。別に俺ちんなにもしてないよ」
そう言ってヘラヘラと笑うムタに、セオは未だ同じ笑顔を張り付けたままであった。セオは術が解けて少しよろめいたイシュタルの腰に手を回して支える。
「言い逃れは出来ないぞ、ムタ。
…セオ様は"
セオと一緒に来たシンが呆れたようにそう言って剣を抜く。そして勢いよくムタに振り下ろした。ムタは綺麗に体半分に切れ目が走り、痙攣しながら白眼を剥いて崩れ落ちる。そして黒い塊になって床に散らばると、地面に吸い込まれるようにして消えていった。
「流石、セオ様とシンだな!俺ちんすぐに
物陰に隠れていたムタがひょっこり出てきて言うと、シンが溜め息を吐いた。セオは怒ったようにムタに言う。
「俺は尋問をしろとは言ってないぞ。
俺はイシュタルを探し出せとだけ言ったはずだが?」
「だって、セオ様が連れてきた人間がどんなのか気になっちゃって…。
なぁ?シンだって気になるだろ?だから味方してくれよー」
「そうやってすぐ俺に振るな。さっさとセオ様に謝れ」
シンの後ろに隠れていたムタは、シンによって無理矢理前へと突き出された。セオの刺さる視線に諦めたのか、悪いことをした子供のように肩を落として項垂れる。
「う''ぅ~… ごめんなさい。お前も怖い思いさせて悪かったな」
「い、いえ、私も助けてもらったので…。お礼を言うのが遅れてすみません、ありがとうございました」
「ムタ、今度イシュタルに危害を加えたら俺が容赦しないからな。
さて、イシュタルも見つかった事だし今日のところは城に戻る。ムタとシンは死体を片付けてから来い」
シンは返事をすると、ムタをひこずるように連れていった。イシュタルは自身の気持ちをセオに聞かれていたのを思い出し、俯いているとセオに呼ばれて我に帰る。
「怖い思いをさせて悪かった。ほらもう城と繋がってある、帰ろう」
手を引かれて魔法陣をくぐると、そこは城の玄関前で慌てたようにオセロットが駆け寄ってきた。
「おかえりなさいませ、セオ様イシュタル様!」
「ただいま、オセロット。セバスは帰っているか?」
「はい、セオ様の執務室でお待ちになられているかと思います」
イシュタルを連れてセオは城の中へと入っていく。イシュタルがセオの後ろを歩いていると、急にセオが立ち止まり振り返って言った。
「どうした、何か移動魔法に気になることでもあったか?しばらく魔法陣を見つめていたようだが。」
「いいえ、大したことではないのですが…
行きは
本当にくだらない事だと思いながら、イシュタルはセオに言った。すると、セオは何かに気づいたのか吹き出すように笑う。
「くっくっ、すまん ただ俺が使わなかっただけだ。飛ぶとイシュタルがあまりにも楽しそうに悲鳴を上げるからつい、な。
いや~、早速気付かれてしまったか」
「っ!楽しんでなど… 本当に怖いだけです!セオ様は、意地悪なのですね」
イシュタルがそう言うと、全く悪いと思っていないセオが笑いながらイシュタルの頭を撫でる。そして客間へ続く扉を開けた。
「おかえりなさいませ、セオ様、イシュタル様」
中にはセレネが待っていて、頭を下げて言った。
「出迎えご苦労。セレネ、イシュタルを休ませてくれ。夕食までゆっくりと過ごすといい。また呼びに来る」
「かしこまりました」
「あ、あの!」
「ん?なんだ?」
「今日は助けていただきありがとうございました。あの、役にもたたずに迷惑ばかりかけてすみません」
頭を下げるイシュタルに、セオは優しく笑って肩に手を置いた。
「気にするな、役に立ってないことはない お前のお陰で
そう言うとセオは客間を後にしてセバスの待つ執務室へと向かった。扉が静かに閉まったのを見てセレネが振り向きイシュタルへ言った。
「セオ様も、あんな表情されるのですね」
「 セオ様が笑うのは珍しいんですか?」
「ええ。あんなに優しく笑うところは私も見たことがありません。お相手がイシュタル様だからでしょうね」
くすりと笑って、イシュタルのローブを畳みながらセレネが言った。イシュタルは言葉の意味を理解すると頬をりんごのように染め上げ、それは違うと否定する。そしてそれを見たセレネが自身の上がった口角を隠すように話題を変えた。
「イシュタル様、衣服など汚れていますので先に入浴されては如何ですか?」
「はい、じゃあお言葉に甘えてお願いします…」
「ふふっ、かしこまりました」
イシュタルを浴室へと連れていき、メイドに任せて着替えを選ぶセレネ。
「セオ様は本当に可愛らしい子を拾ったようで」
そう言うと、静かに笑ってクローゼットから服をとるセレネであった。
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