11 ラスファリタ王国

国の中には見慣れない建物が建ち並び、いくつもの旗が緩やかに風になびく。人々の雰囲気や空気も悪くなく、平和な国という印象をうけた。

セオは店先を掃除している店主を見つけ尋ねた。


「やあ、こんにちは。旅の途中に立ち寄ったのだが、この国についてなにか教えてくれないか?」


「アンタら旅人さんか。いいぞ、何でも教えてやろう!」


男は掃除に飽きていたのか、単に暇だったのか、待ってましたとばかりに答える。


「ここは"ラスファリタ王国"といって、今は第13代国王"オズヴァルド"王が王位を継承なされたばっかりだ。人口は約百万人ってとこだな、他の国に比べりゃ人は少ないけどよ」


「そうか、ここはラスファリタ王国と言うのか。他の国はいくつあるんだ?出来ればここから近い方が助かるんだが」


セオの言葉に店主は驚いた。誰もが知っていて当然の事を聞かれたからだ。少しの沈黙の後、店主が口を開く。


「あんたらマジで旅人さんか?こんぐらいならみんな知ってるぞ…。

まぁいいか、そうだな。じゃあまずは隣国の"ユーテリア王国"と"バハール王国"だ。ユーテリア王国とラスファリタ王国は"友好条約"を結んでるから、特産物を関税無しで売ることが出来る。国籍証さえ見せれば、宿代もまけてくれるって話だからオススメだぜ。で、バハール王国ってのは北の山麓にあって実は俺もあんまり詳しくは知らねぇ。ただ、噂によれば"異種族いしゅぞく"も一緒に住んでるって話だ」


「ユーテリア王国とバハール王国か。その異種族ってのは一体なんだ?」


「おいおい、そんな無知でよく今まで無事だったな…。

異種族ってのは、人じゃない奴らさ。俺達みてぇに言葉を喋るが爪や牙は鋭くとがってて、いつ襲ってくるかたまったもんじゃない。悪いことは言わねぇ、あんま近づかねぇことだな。で、ラスファリタ・ユーテリア・バハールの三カ国をまとめてるのが中心にある大国、" シュメール王国 "だ。人口三百万人以上で、治安もいいぞ。なんてたって王様が優しい御方だ、是非ともシュメール王国には行ってみてくれ」


「ほう、色々とすまないな。勉強になったよ」


「かまわねぇさ!あ、それと宿が決まらなきゃ俺んとこに来いよ!安くしとくぜぇ!」


セオ達は店主にかるく手をふってその場をあとにする。ひとまず、国の情報は手に入れた。我ながら上出来だと、セオは思いながら市場へ向かった。


「イシュタル、聞いた国の中で知ってる国はあったか?」


「行ったことはありませんがシュメール王国なら少しだけ聞いたことがあります。特産の葡萄酒エールとパイがとても美味しいそうですよ」


「それはいいな。今度セバスも一緒に連れて行ってみるか。きっと沢山の情報を集めることが出来るぞ」


そう言って楽しそうにセオは笑った。



行き交う人を避けながら市場につくと、そこはとても賑わって活気づいていた。色々なものを店先に並べ、軒並みそろえて商売に勤しんでいる。

普段なら場違いに思えるが、セレネの選んだ服のお陰でイシュタルに奴隷の面影はなかった。むしろセオと並ぶと、貴族ほどではないが周りには身なりが良く写っている。 そのせいか店先を通る度に店主から声をかけられ、イシュタルは下手な愛想笑いを浮かべていた。

二人は時折並ぶ商品に足を止めながらも歩いていると、後ろから騒がしい声が聞こえてきた。それはどんどん近付いて来て、通りに罵声が響き渡る。


「おいっ!誰かそのクソガキを捕まえてくれ!うちのリンゴを盗みやがったんだ!!」


振り返るとイシュタルとセオの間を子供が疾風の如く走り抜けた。腕から溢れ出たリンゴがひとつ二人の足元に転がる。捕まえきれなかった店主は膝に手をついて肩で息をしていた。セオは落ちていたリンゴを拾って服の袖で拭いて渡す。


「すまない、突然すぎて対応出来なかった。」


「はぁはぁ、ありがとう。気にしないでくれ、どうせ奴隷だろうよ。ったく、だから奴隷野良犬を野放しにするのは反対なんだよ、ああやって毎日店先のもん盗られたら商売上がったりだよ、まったく」


そう言うと店主の男はリンゴを受け取り店へと戻っていった。


「…また奴隷の仕業ですって」

「盗みなんてするのは奴隷ぐらいしかいないからな」


「ほんとに卑しい生き物だわ」

「仕方ないさ。あいつらは生まれてから死ぬまでああやって生きていくしかない」


「最低よねー奴隷なんていくらでも代わりがいるっていうのに…」



─ 『 生きる意味あるのかしら 』 ─


目撃した人達が口々に小声で話す。しばらくすると集まった人達は少しずつ立ち去っていった。

自身の汚れた裾を払いながら、セオは隣を歩くイシュタルに溜め息混じりに言った、


人族ヒューマンの奴隷とは扱いが酷いものだ、まだ子供だと言うのに。…イシュタル、あまり聞いては駄目だ」


つもりだった。返ってこない返事を追ってセオは顔を向けると、そこにイシュタルの姿はなかった。周りをぐるりと見渡すが、見当たらない。

セオは早足で路地裏へと入り、人目のつかない暗がりへと身を潜めた。そして自身の首に付いている赤い魔法石に触れる。するとそれはぼんやりと鈍く、赤く光った。


「全員に告ぐ、至急イシュタルを探し出せ。戦闘になった場合、最悪殺しても構わない」


セオはそう言うと、イシュタルの痕跡を追って走り出すのだった。

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