09.5 魔界にて

創造神グノシス様っ!!大変です、大変な事態となっています!!」


王室の扉を開いて、" 総括長ヨナス "が慌ただしく入ってくる。


「騒がしいぞ、何事じゃ?」


書類整理から顔を上げれば、目に顔面蒼白の総括長ヨナスが映る。ただごとでは無さそうだと思い、持っていた羽筆を静かに置いた。


「緊急事態ですっ…!大至急、" ワールドC/007 "を御覧ください、!」


そう言って映し出された世界に目を通す。するとそこには、セオの人族ヒューマンに恋い焦がれる姿があった。勘弁してくれ、これはなんとしても秘密にしておきたい。なにせ、一応役職は" 魔王 "だ。バレては死後、転生はおろか魂さえ救済されず闇を彷徨うかもしれない。どうやって口を封じようかと、総括長ヨナスを見る。


「さぁ、見たものの…。どこがそこまで問題だと言うんじゃ?」


あくまでも、しらを切って進めていく。どうにかセオに関しての発言を阻止せねば。


「世界がっ…!ワールドランクが…変化していますっ!!!」


目をやると、" ワールドC/007 " の文字がバグったように読めない。


「……測定不能ということか、こんなことは今までなかったぞ…どういうことじゃ?」


「全くわかりません…。今、修正に取りかかっていますが一向に良くならず…」


「そうか、…まぁ良い。一応はワシの息子はしくれ…うまいことやるじゃろうて」


そう少し笑って返すと、ホッとしたのか総括長ヨナスに顔色が戻った。


「そうじゃ、ヨナス。ワシにこの" ワールドC/007 "を任せてくれぬか?いや、セオ我が息子の成長を見届けたい親の性じゃ。それに、お前ひとりにこの世界を任すのも悪かろうて。」


なにがなんでも情報が漏れることだけは避けたい。正直、創造神グノシスにワールドCのバグなんて関係なかった。セオの醜態が魔界中に知られれば、自身の神の座を揺るがしかねない。


「では創造神グノシス様、申し訳ありませんが、よろしくお願い致します。」


うまくいったようで、総括長ヨナスは晴々とした表情で戻っていった。創造神グノシスは急いで" ワールドC/007 "の管理者をヨナスから自分へと変更する。無断閲覧禁止も忘れずに。その上、持ち出し禁止のロックもかけた。


「これで大丈夫じゃろう…。ふぅ、見つけたのがヨナスで助かったわい」


脱力するように椅子にもたれる。ここ何百年かで一番ヒヤリとしたかもしれない。だが、ここまでしておけば大丈夫。自分以外の者達にバレる心配はないだろう。

創造神グノシスは安心したように、書類整理に戻ろうと羽筆を握った。






─ 【システム異常なし。データ修正を終了します】 ─


音声ファイルが流れるが、誰一人として気付かない。全てにロックがかかっているので、仕方ない事ではある。


─ 【データが更新されましたが、更新しますか?一度データを更新すると、以前のデータへは戻せません。ご注意下さい。なお、30秒後迄に回答がない場合、強制的に更新となります】─


創造神グノシスは忙しく書類整理をしているし、管理者さえ自分に変更できればよかったのだ。気にも止めていないし、気付きもしない。


あっという間に30秒がたって、"ワールドC/007"のデータが更新された。

そして、無機質で機械音のような音声ファイルが流れる。





─【データの更新が終了しました。只今より】─


─【" ワールドSS/007 "に変更します】─




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