08 提案
私は意を決して発言した。瞬間、皆が鋭い目つきに変わった。きっと答え方ひとつで、私の生死は決まってしまう。それを強く思わせるような視線であった。
「んー…俺ちん寝てたから分かんないけどさ~…それってつまり、俺達は人間に媚びればいいってこと?」
いつの間にか起きていたムタが気味の悪い笑みを浮かべてイシュタルへ問いかける。
「違いますっ!…そういう意味じゃなくて、その…」
「やめろ、ムタ。すまないが、詳しく説明してくれないか?ゆっくりで、構わないから」
「わ、私も詳しくは分からないのですが、王国には王直属の護衛 騎士団 と、それとは別に" ギルド "という組合のようなものがあって…えっと、それに登録すると仕事の依頼を受けれるようになるそうです。…噂ですが騎士団も表に出せない依頼をまわしていると聞きました、本当かはわかりませんが…」
皆の未だ鋭い視線に耐えきれず、下を向くと声がどんどんと小さくなった。すると空気を読んでか、諦めてか救いの手が伸びる。
「成る程。王国を守る騎士団とは王が選んだ者のみがなれるもの。それとは逆にギルドとは登録し認証さえされれば誰でも身分関係なくなれる、そういうわけですね。
…やっと辻妻が合いましたよ。私達魔族を討伐しに来ていた勇者とはギルドで仕事として依頼され、報酬を目的とされていた…どうりで弱いはずだ」
未だよく分かっていないムタとバステトの頭には、
「…俺達が勇者だと相手していたのは所詮、金で雇われた人間にすぎない。実力も王国直属の騎士団の方がずっとか強いだろう。それもこれも俺が怠惰し招いた結果だ。
だが、そのギルドというのは実に興味深い…そうだろ?セバス」
「はい。ギルドに登録すれば奴隷や平民を助けることになります。しかし、必ずそれはどこかのタイミングで国内上部の人間に繋がるでしょう。ましてやそれは騎士団か、はたまた国王か。
…それに、これはあくまで予想ですが、騎士団の中には勇者の素質を持った人間も含まれるでしょう」
「それは早く事を起こさねば損だな。よし、俺は明日外を見てくるとするか。お前達も行って情報を集めてこい。ただし、人間を殺しはするな」
そう言ったセオは何だか楽しそうな顔だった。他の七人も同様、マンユとアンラにいたってはきゃっきゃとはしゃいでいる。何が楽しいのかわからないイシュタルは、首をかしげながら皆を見るのであった。
その後、明日の予定はセオとセバスで決めるようでイシュタルはメイドに案内されて部屋へと戻った。
「イシュタル様、おかえりなさいませ。…あら、随分とお疲れの御様子ですね、お休みになられますか?」
「そうですね…お願いします」
そう答えると、セレネが寝室へと向かう。すぐに呼ばれて行くと、ドレッサーの椅子へと座らされた。結われていた髪が解かれて、優しくブラッシングされる。鏡に映る自分は身なりが違いすぎて、どこか他人を見ているような気分であった。
ドレスから寝間着へと着替えてベッドに腰掛ける。すると、暫くもしないうちにセレネがティーワゴンを押して入ってきた。部屋中にやさしい柑橘系の甘酸っぱい匂いが充満する。
「わぁ…、美味しい」
「これは、リラックスと疲労回復の効果があるハーブにオレンジの皮を入れてみました。お口にあって良かったです」
こんなに美味しい紅茶を飲んだのは初めてかもしれない。甘めが好きとは言っていないはずなのに、甘さも丁度良い。御礼を言うとセレネは微笑んで一礼し、部屋を出ていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます