07 冥界の七柱

「やっと集められたかと思ったら、…随分と美味しそうな獲物ですにゃ」


「口を慎みなさい"バステト"。この方は、一応セオ様の妃候補なのですから」


「…は?」


セバスの一言に集められた全員が驚いて目を見開いた。そして言葉を失ったが、絶対的君主である魔王セオに反論する者はいない。暫しの沈黙の後、セオが口をひらく。


「まぁ、それはまた追々説明するとして…。まずはセバス、イシュタルにこの者達の紹介をしろ」


「かしこまりました。では"バステト"立ちなさい」


「はいにゃ~」


それを聞いて一人の女性が立ち上がる。クセのある濃紫色の髪が、ふわりと揺れた。山吹色をした瞳は少しつり上がっていて、鋭さを感じさせる。頭には真っ黒な猫の耳がはえていて、よく動く尻尾は落ち着きがないように思えた。


「次に"アフロディーテ"。」


「うふふ、よろしくですぅ~♪」


アフロディーテが立ち上がると、間髪入れずに子供の様な二人が跳ねるように前に出た。


「僕は、"マンユ"!」

「私は、"アンラ"!」


「「よろしくっ!!」」


息のピッタリな可愛い二人に、イシュタルの頬がほころぶ。衿付のベストにネクタイを締めて下はハーフパンツを着た方がマンユ。ネクタイが大きめなリボンで、下がキュロットなのがアンラ。どちらも金髪でアンラは高めの位置でツインテールにしてまとめている。


「二人とも静かにしなさい。セオ様、イシュタル様申し訳ありません。では、"ムタ"、そして最後が"シン"」


「んー」


「おいムタ、すぐに寝るな、起きろ」


"ムタ"と呼ばれた男は露草色の髪をしていて前髪が長く、両目を隠していた。着ている長袖の服は首もとや袖が伸びていて、だらしなさを感じる。反対に"シン"は立襟のコートを羽織り、きっちりと軍服の様な服を着ていた。


「そして私で"冥界の七柱"全員にございます。」


「ご苦労、セバス。こいつはイシュタル、皆仲良くしてやってくれ。」


「よ、よろしくお願いいたします」


イシュタルが頭をあげると、七柱達と目があった。どうやら殺気等嫌な感じはなく、ホッと胸を撫で下ろす。だが、歓迎されているようでもなかった。


─ なんだか楽しんでる…?


イシュタルがそんなことを思っていると、セオが話し出した。


「じゃあ本題に入ろう。いいか?驚くなよ。単刀直入に言う……俺達は絶滅したらしい」


「「は?」」

「「面白いー!!」」

「…Zzz」


「…みなさん、落ち着きなさい。別に私達が消えたわけではありません。…証明すればいいのです、ですよねセオ様」


驚きでざわめく皆に向かって、セバスが言った。だが、未だ話の前に進めないバステトとシンが慌てたように言う。


「ちょっと待つにゃ、絶滅?どう言うことにゃ?」

「我ら魔族は恐れられる存在ではなかったのか?」


「それは全て俺の責任だ、すまない。あまりにも奥手すぎた結果、俺達は脅威とは思われなくなってしまった…。だが、今からでも遅くはない、油断している人間ヒューマン共に反撃開始だ」


頭を下げて言うセオに皆が黙る。

魔族達は完全に、人間達ヒューマンを舐めていた。すぐに死ぬと思っていたし、外の世界など知ろうともしなかった。その結果がこれだ。


「じゃあどうするにゃ~?今から国ひとつぐらい潰して存在を証明するかにゃ?」


「そんなことをするとぉ、前回と同じで世界が崩壊してしまうんじゃなぁ~い?バステトったら、いつも子供みたいな事言うわねぇ~♪」


笑うアフロディーテを隣で睨むようにバステトが見る。今にも掴みかかりそうなバステトをとめてセオが言った。


「落ち着けバステト。だが、アフロディーテの言った通り国を潰したりするのはなしだ。他の方法で何かないか?イシュタルはどうだ?」


皆が頭を抱えていると、アンラが手を挙げた。


「はいはーい!セオ様!あのね、マンユがね、何かあるみたいなの!」

「ちょっと…恥ずかしいよ、僕なんか無理だよ…」


「マンユ、話してみろ。大丈夫、誰も笑ったりしないから、ほら」


「あの、僕が考えたのは…国の偉い人にかわって従わせるのとか…、例えば人族ヒューマンの王様になったりとか、」


「ほぅ…従わせるか。偉いぞ、よく言ってくれたな」


セオがマンユの頭を撫でると、恥ずかしそうにうつむいた。実際はセオ自身が好きでやっていて、この二人はなにかとよく撫でられてる。


「…それだと、王はどうする?殺すか?」


「それをしてしまうと、人間ヒューマンからは反感しかかわないでしょうね。何か他にいい案を考えなくては…」


シンがセバスに言うが、二人ともいい案が浮かばなかった。先の事を考えると、どうしてもこれといった方法が見つからない。また振り出しに戻って、頭をかかえる。

そんな中、セオの隣で弱々しい声が聞こえる。


「あの…ひとつあるんですが…」


「イシュタル、言ってみろ。」


少し言うのを躊躇したイシュタルだが、セオに言われて腹を決めた。そして、皆へと爆弾の様な発言を投下する。



人族ヒューマン達を、救ってみてはいかがでしょうか?」


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