第四幕 偵察

 とある商店街を、二人の少女が手を繋ぎ、仲良く歩いていた。しかし、二人の姿には違和感があった。季節は秋へと変わり、上に一枚なにかを羽織らないと少し肌寒さを感じるようになってきた頃だというのに、その二人組は生地の薄い長袖のセーラー服に身を包んでいたのだ。

 その上、二人が着ているセーラー服は、少なくともその商店街のある町や付近の市や町、該当する都府県では見ない物だったのだ。


 そんな二人は、とあるお店の前を横切った。その時だった。片方の少女が歩みを緩め、一方の少女の腕を弱く引っ張った。

「ちょっと待って」

「何よ、突然」

 一方の少女が立ち止まって振り返ると、腕を引っ張った少女は申し訳なさそうに小さく俯いた。

「ごめんね、少しお腹が空いたの。何か食べたい」

「何言ってるのよ、アイシア。こっちの世界に来て感化されちゃったわけ? 私たちはお腹空かない。『空いた』という演算結果が例え出たとしても、それは数式処理のし過ぎ、『バグ』よ。『疲れた』のね」

「そうかもしれない。『疲れた』わ、アクア」

 彼女たちはお互いを「アイシア」、「アクア」と呼び、それぞれ休憩ができそうな場所を探して辺りを見回した。

 休憩ができそうな場所、といっても、ベンチや日陰などではない。それは、水が多く存在する、川や池、湖のような場所を彼女たちは探していた。

 そんな時、アイシアと呼ばれた少女は、先程通り過ぎたとあるお店に目が留まった。

「あれ、何かしら……?」

「ちょっと、アイシア?」

 近づいて、店頭にディスプレイされている物を見ると、そこには彼女たちが見たことのない、白く輝く三角形をした物が目に飛び込んできた。

「……おに、ぎり……?」

「ねぇ、アクア。これ何か知ってる?」

 ディスプレイから目を離さず尋ねるアイシアに、アクアも同じくジッとその「おにぎり」を見つめながら小さく首を振った。

「ううん、知らない。データベースの中にはないわ」

「ということは、未知の物。調べる必要がありそうね」

 ようやく目を離したと思ったら、徐に身体を起こして、揚々と店の入り口に向かおうとするアイシアを、アクアは慌てて制止した。

「ちょっと待って、私たちは食べ物を探しに来たわけじゃないのよ?」

「でも、『間違いなく美味しそう』という演算結果が出てるわ」

「だとしても、食事をしに来たわけじゃないんだから」

「わかってる。これも偵察よ、偵察」

 アクアが必死に説得を試みても、アイシアは意に介さず、にこやかに店内へと入っていってしまった。それを見送るアクアも、実は内心、その「おにぎり」なる物がどういったものなのか気になってはいたため、一度「つば」を飲み込んで、付き添いで来たという雰囲気を装いながら店内へと入っていった。

「仕方なく。そう、仕方なくで付き合ってるだけなんだから」

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