第三幕 バレンタイン

 2月14日はバレンタイン。

 月島えりたち、いつもの仲良し四人組もそのイベントに盛り上がっていた。ただ、今年は当日の予定が合わず、皆は後日集まることにした。

「いやぁ、今年は当日集まれなかったねー」

「仕方ないよ。それにさ、当日集まんなきゃいけないってわけでもないし、後日こうして集まれたんだから、気にしない気にしない」

「ま、そうだね」

 瀬里と由依がそんなことを言っていると、待ちきれないのか、陽愛が早速紙袋から綺麗にラッピングされたプレゼントを準備し始めた。

「ねぇねぇ、早く交換しましょ?」

「陽愛のせっかち」

 みんなが笑い合う中、彼女たちのバレンタインは賑やかに始まった。



「わ、なにこれ! 柑橘系の味がする」

 瀬里がいくつかあるプレゼントの中から一つ、包装を解いて現れた箱を開けると、中には手作りと思われる一口大のチョコがシリコンカップに入れられていくつも整列して入っていた。

 それを一つ口に入れると、柑橘系独特の甘酸っぱい、爽やかな味が口や鼻に広がった。

「あ、それ私のかも。オレンジピール入れてみた。美味しい?」

「うん、美味しい。やっぱ由依、上手だねぇ」

「へへっ」

 瀬里たちは、以前より調理実習などで由依が料理上手であることは知っていたが、今回もまた感心せざるを得なかった。本人も、みんなから「美味しい」「すごい」などと褒められ、毎度のこととは言えまんざらではない様子だった。

 陽愛が別の包みを開けると、そこには黒字に金の文字がデザインされた箱が現れた。

「瀬里ちゃんのくれたこのチョコって、あのショッピングモールの?」

「そうだよ。三人をイメージして、それぞれ別々の味のものにしたんだ。ミルクとかイチゴとか……」

 先にその箱を開けて、チョコを食べていたえりが、瀬里の言葉に反応した。

「あれ、じゃあ私、抹茶?」

「あ、そうそう! えりはね、抹茶味にした」

「どうしてえりちゃんが抹茶味なの?」

「んー、なんかね、和風な感じ?」

「え、なにそれ」

 ザックリとした返答に、思わずえりは目が点になった。しかし、箸が転がっても可笑しい年頃というもので、それすらも可笑しくて四人はすぐに吹き出し笑いして、笑い始めた。


 帰り際、えりは満足げに口を開いた。

「もうなんか、数ヶ月分くらいチョコ食べた気がする」

「意外と量あったね」

「私はもう、しばらくチョコいらないわ」

「由依に同意。私も、明日からチョコ食べなくても生きていける」

「瀬里ちゃん、それは言いすぎだよ」

 賑やかに会話をしていると、一行は駅前にさしかかった。

「あ、あれ見て。駅前の」

「なになに?」

 陽愛の指さす方をたどって、他の三人も駅前の広場を見る。すると、そこには不定期に代わる代わるやってくる、キッチンカーが停まっていた。ある時は数台停まっていることもあるが、今日は一台だけが来ているようだ。

「ホットチョコドリンク……?」

「ねぇ、気にならない? ちょっと行ってみようよ」

「見た感じ、今、お客さん少ない! チャンス!」

「行くぞー」

「え、ねぇっ、ちょっと! 瀬里、由依、陽愛ちゃん! もうチョコはいらないんじゃなかったのー!?」


彼女たちのバレンタインは、まだしばらく終わらないみたい……

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