♯15.5 来週の私へ

 「お帰り。もう帰ってたんだ」

 「あ、あぁ」


 酔い潰れた私の父は、玄関で横になっている。いつからだろう、こんな体たらくなクソ親父になってしまったのは。


 「リビング行くなら靴ぐらい脱いでよ… 」


 私は酷く泥酔した父の靴を脱がしながら、昔の事を考える。あの頃はよかったな、なんて。でも感傷に浸る気は無い。ただ、ただ。あの頃の優しくて頼りになる父に戻ってくれたらと、何度心の底から思ったことか。これじゃまるで介護みたいじゃない。


 「クソッ...酒くさ」


 口から勝手に言葉が漏れる。


 私は父をおぶって寝室へと運び毛布をかけると、担ぎ疲れた肩を気怠げにぐるりと回す。父親のだらしない姿を見ていると、こんな奴の娘なのかと情けなくなってくる。自分の部屋へ入ると、ベッドにボスンと仰向けに倒れ込み、おでこに右腕を乗せた。


 「一体、なんなんだろうな」


 言いようのない何かが頭の中でグルグルと勝手に回る。このストレスをどこかにぶつけたい衝動に駆られ、落ち着くために、すでに匂いでバレているであろう机の引き出しの中に隠したタバコとライターを手に取り、火を点ける。


 酷く汚れた窓を開け、タバコの煙を吐く。煙は、空に吸い寄せられるように登り、月明かりに照らされて静かに消えた。


 「思いー出はーいーつーもー綺麗だけどー」


 気分を少しでも高揚させる為に、好きな曲を歌ってみるけれど、残念ながら効果は無いようだ。


 タバコを吸いながら、私は瑠美と母の事を考える。二人は元気だろうか?今度引っ越す場所で二人に出会ったら、どうしたらいいのか?会えるのか?...会ったらどうすればいいのか。正直怖い。二人に会うことが怖い。



 こんなどうしようもないのに、1週間後の私はちゃんとしているのだろうか?今の高校と同じように通学は出来ないでいるのだろうか?新しい心療内科の先生とはうまくいくだろうか?未来の私はどうしているのだろうか。


 そうだ。せめてこのむき出しにできない心を、私は来週の私に綴ろう。


 私は机の中からまだ使っていない大学ノートを取り出すと、私の心の虚無感と同じ白色にペンを走らせた。

 

 弱虫な私から来週の私へ。


  柏 佳香

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星降る夜に、君の隣で 麻象 塔(asasaki tou) @asasakitou

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