第27話カエルだからできること




(えっ、セレネーさんの魔法が使えないんですか?!)


 翌朝、朝食を終えて早速指輪探しを始めたカエルに、セレネーはため息交じりで状況を伝える。


「そうなのよ……こうやって水晶球で王子とやり取りできるのは、魔法の対象が王子だから。屋敷を対象にしようとすると、魔法がまったくかけられなくなっているわ」


(それはつまり――)


「アタシはこうやって王子に連絡を取るだけしかできない役立たずってこと。この広い屋敷の中を、王子ひとりだけで探さなくちゃいけないのよ」


 一緒に探すことができれば、今日中にも指輪を見つけてユベールへ渡せると思っていたのに。

 セレネーが悔しがっていると、カエルはケロッとした顔をしながら胸を張った。


(分かりました! 広いとはいっても探す場所は限られていますから、時間をかけて丁寧に探していけば見つかると思いますし……頑張ります)


 頼もしいカエルの心の声に、セレネーは思わず吹き出した。


「そう言ってもらえると気が楽だわ。まあ何もできない訳じゃないから、アタシはアタシのできることをやっていくわ」


 そんなやり取りをした後、早速カエルは指輪探しを始めた。


 辺りに家人や使用人がいないかを確認しつつ、カエルはひとつひとつの部屋を調べていく。まずはユベールの部屋にある寝具や家具の隙間を、背を低くして入り込みながら指輪を探す。大体は掃除が行き届いているが、家具の裏側と接している壁や隅には埃が溜まっており、たまに埃が顔に直撃してカエルは顔をしかめていた。


 ユベールの部屋に何もないことを調べた後は、隣にある部屋へと順繰りに探していった。一日の間に調べられるのは、せいぜいひと部屋からふた部屋。焦らず隅々まで部屋の中を探し、家具の中などにも潜り込んで調べる日々を送った。


 一番の難関は部屋の扉を開けること。ノブがついている扉は、カエルが全身を使ってぶら下がったりなどして上手く回して開けることができた。

 問題なのは手で押して開ける扉と鍵がかかった扉。カエルの力では押し開けるどころか微動だにできなかったし、鍵を見つけても差し込むことが出来なかった。


 そんな時は前日にユベールへ、調べたい部屋の換気を使用人にお願いして欲しいとカエルは頼んでいた。そうすれば翌日には部屋の窓を開けて換気されるので、外壁をよじ登って窓から入っていた。


 カエルという小さな体は不便が多かったが、カエルだからこそ見える景色や気づくものもあった。


『あ……これ……』


 書斎らしき部屋の本棚の上で、カエルは五角形の平らな石を見つける。金貨よりは二回りほど大きな石。表面に刻まれた星印。水晶球でその外観を確認したセレネーは、「あら」と声を漏らす。


「結界を張る石じゃない。これが防呪の原因ね」


(では、これを取り除けばセレネーさんの魔法が使えるように――)


 手を伸ばして石に触ろうとしたカエルを、「ダメよ」とセレネーは慌てて制止した。


「下手に防呪を解いたら、これを仕掛けた人間に何かされるかもしれないし、何か困ったことが起きるかもしれない……軽率に現状を変えるものじゃないわ」


 もし結界を仕掛けた何者かがカエルに危害を加えてきたら、対応が間に合わないかもしれない。特に狙われていない状態なのに、わざわざ危険にさらすような状況を作りたくない。いくらできることがあるといっても非力なカエル。踏み潰されるだけで一環の終わりだ。


 カエルもよく分かっているようで、ブルッと身を震わせ頷く。それから腕を組んで部屋の上を見た。


(セレネーさん……もしかしてユベールの指輪、落として失くしたのではなく、誰かが意図的に隠した可能性もありそうですね。だとすれば部屋の上のほうを重点的に探すと見つかるかも……)


「そうね。それなら一旦ユベールにどう探していたかを聞いてみると良さそうねー……ん?」


 ふと引っかかるものを感じて、セレネーは結界石を凝視する。目を凝らしてしっかりと見ていけば、あまりに真新しいことに気づく。まるでつい最近置かれたような――。


 セレネーは小さく息を引き、顔をしかめる。


「……王子、前言撤回。ユベールには何も聞かないで」


(え? なぜですか?)


「この結界、王子が来てから張った可能性があるわ。今王子がここにいることを知ってるのはユベールだけ……ユベール本人が仕掛けたか、ユベールを監視する何者かが仕掛けた可能性があるから、今はまだ探しても見つからないぐらいに言葉を濁しておいたほうがいいわ」


 探してと頼んだのはユベールなのに、まるで見つけて欲しくなさそうな気配を感じてしまう。


 もしかして動かずに、お客様扱いのままで関係をちょっとずつ進めたほうが良かった?

 困惑に首を傾げるセレネーと同じように、カエルも不思議そうに首を傾げていた。

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