第2話 薔薇香る憂鬱

「あれは、食前酒ですか?」

 別のテーブルでは、若いカップルが、薄いピンク色の炭酸をジョッキであおっている。


「はい。あちらは、『薔薇香る憂鬱』ですね」

 ローズウォーターの香りがする、ハイボールだという。


 たしかに、中身がほんのりピンク色だ。

 バラのエッセンスを入れているのか分からないが。


「どうして、あれが憂鬱なの?」

 ヒカリが店主に尋ねる。


「炭酸は、中毒レベルまで飲み過ぎるとウツになる効果があるそうです。飲み過ぎには注意が必要ですね」


 聞くと、あの二人はカップルじゃないのだとか。

 お互いの好きな人同士が結婚してしまい、残念会を開いているのだという。


 彼女たちが、憂鬱な結末にならないことを祈るばかりだ。



「さて、ボクたちも食べよう。オーダーをお願いします」



「はい。お楽しみに。ですが、まさか大量のオーダーをいただけるとは思ってもみませんでした」

 そう言って、店主はキッチンへ。


 ぼくは、「お題付きの創作料理では、お腹が膨れない」という情報を知っていたので、大量に頼んだのである。


「どれだけ頼んだの?」


「六つだよ」

 ボクは、手と指を使って「六」を表現した。


「冗談でしょ?」

「半年も待たせちゃった」

 お題一つにつき一ヶ月かかる。

 つまり、六ヶ月の間にぼくらがお別れしていたら、ぼくが料理を全部食べる羽目になっていたのだ。


「呆れた。その執念すごいわ」

「もちろん、ご飯を食べる目的で君と付き合っていたわけじゃないから」

「そ、そりゃそうよ!」

 ヒカリがむくれた。

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